高いモチベーションで
難しい挑戦に取り組む秘訣
もうひとつは法律の壁だ。建築基準法では鉄筋の入っていないコンクリートは使用できない。実証実験では組み立て時に鉄筋を入れて対応するが、施工の省力化というメリットを削ぐことになってしまう。現在、国土交通省は「3Dプリンター対応検討委員会」を設置し、新技術に対応した規則の在り方を検討しているが、こうした議論の行方も注目される。
JR西日本は最初、セレンディクスの住宅を「ちょっと手直し」するだけで使えると考えていたというが、検討を進める中でオーダーメイドに近い設計をしなければならないことが分かってきた。コスト面では一体成型が有利だが、ミリ単位の位置決めが必要な機械分野のすり合わせなど、ハードルも少なくない。
しかし、JR西日本の建築、機械部門とセレンディクスは、難しいチャレンジに高いモチベーションで取り組んでいる。その秘訣を川本氏は、検討の最初の段階から担当部門と課題を共有し、検討を進めてきたからだという。
「(取り組みを上から押し付けると)その時点で反発するじゃないですか。特に技術の方は、特に安全に関してはものすごくプライドを持っています。やっぱり自分たちで触ってみて、納得してやってくれているので、そこが本当に大事だなと思います」
昨今、さまざまな鉄道事業者が「オープンイノベーション」や「スタートアッププログラム」を掲げて課題解決に取り組んでいるが、正直なところ地に足のつかない上滑りしたものも多いように思える。
そうした中、JR西日本はスタートアップ企業の提案を審査して採用する手法を取らなかった。彼らがやれること、やりたいことをそのまま持ってきてもJR西日本の課題とマッチしないことが多い。
そこでJR西日本が自らキラリと光る企業を探し出し、現場を交えて社会実装、解決に向けて議論してきた。これは3月4日付「JR西日本の新技術が『日ハムの新球場』に導入された納得の理由」で取り上げた「ソリューション外販」にも通じる点だ。こうした成果が着々と形になってきたのが現在だ。
新たな取り組みも始まった。今年6月にはJR西日本の「長期ビジョン2032・中期経営計画2025」に掲げる4つのビジョンと、デジタルツインによる価値創出を公募テーマにしたJR西日本グループの事業共創プログラム「ベルナル」を開始。登記された法人によるものであれば、内容は一切問わないという公募を行った。
もちろんこちらも提案をそのままの形で審査するのではなく、その技術を使って何ができるのか、何を解決するかを一緒に議論することが審査だという。川本氏によれば「何とかかんとか一次審査が終わったところ」だそうで、最終的に来年6月に事業化の判断が下される。次の展開を楽しみにしたい。