2024年3月、日本銀行はマイナス金利を解除し、7月には追加利上げに踏み切った。円安と物価上昇が続く中、25年は金融政策をどう進めるべきなのか。特集『総予測2025』の本稿では、3人の論客が徹底討論する。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
7月の利上げ後に円高・株安に
日銀はトラウマを抱える
――2024年の日本銀行の金融政策をどう振り返りますか。
片岡 日銀は24年3月にマイナス金利を解除し、金融政策の正常化にかじを切りました。さらに7月には追加利上げに踏み切り、政策金利を0.25%へ引き上げています。私の審議委員の経験では、この判断は少し意外でした。
白井 唐突感がありましたか。
片岡 3月は日銀が展望レポートを出して、あらゆる経済動向を丁寧に確認します。マイナス金利を解除するとしても、その決定は4月以降だと思っていました。
7月の追加利上げもやや唐突感がありました。日銀の植田和男総裁は利上げの時期について、所得と支出の好循環が確認でき、物価上昇率が2%に到達すると政策委員が見込める状況になってからだと説明していましたので。
しかし実際は、賃上げの動きが見られた一方、所得から支出の好循環は起こっていません。
好循環が起こっていない中で利上げしたことは、日銀の説明からはなかなか理解しにくいです。私はもう少し利上げを我慢してもよかったと思います。国内の市場関係者も、7月の利上げをそれほど見込んでいなかったはずです。
白井 7月はかなり円安が進んでいたので、私は利上げすると思いました。ただ、市場では意外だったのかもしれません。
片岡 政策金利を0.25%に引き上げるだけでなく、植田総裁は記者会見で、0.5%、さらにその上もあるような趣旨で説明しました。日銀が将来にわたって金利を引き上げていくとコミットしたことが、その後の株価下落にも影響したと思います。
白井 7月の利上げは、それ以前とは違った動きでしたよね。
3月のマイナス金利解除と6月の国債買い入れ減額方針は、海外の市場参加者にとっては少し物足りなさがありました。ドル円相場は円安に振れています。
逆に7月の利上げではかなりタカ派的な発言があり、為替は1ドル=140円台前半まで戻りました。超円安への対応は必要だけど、株価が下落してしまう。日銀は難しいジレンマを抱えています。
加藤 日銀は8月5日の株価暴落が相当ショックだったようです。植田総裁が閉会中の国会にまで呼び出されたことは、日銀にとってトラウマになっています。
片岡 今の円安をどう捉えるかも重要な論点だと思います。
物価上昇率2%超が続く中、物価安定目標や利上げをどう進めるべきか。次ページ以降では、円安やインフレ、利上げを巡り、3人が異なる意見を交わす。