世界で最も時価総額の高い企業の一つを築いた男は毎朝、電子メールの受信トレイをスクロールし、その日で最も重要な100通に目を通す。そして日曜の夜には、お気に入りのスコッチウイスキーを1杯注ぎ、さらに多くのメールを読む。
米半導体大手エヌビディアの従業員は「T5T」(Top-5 Things=最も重要な五つのこと)として知られるメモを書いてきた。自身が取り組んでいること、考えていること、事業の各分野で気づいたことをつづったものだ。
そして何十年もの間、ジェンスン・フアン氏はそれを全て読んできた。
「送ってくれれば必ず読む」と彼は言う。
エヌビディアの創業者で最高経営責任者(CEO)であるフアン氏は、会社の状況を把握し、他の方法では決して得られないような洞察を確実に得るためにT5Tを確認する。
この習慣を始めたのは、自身のスタートアップが人工知能(AI)革命を支える半導体を販売することで時価総額が1兆ドル(約152兆円)の企業になる前のこと。シリコンバレーで知徳が優れ見識が高い哲人のような存在として君臨するずっと前、そしてたくさんの黒い革ジャンを保有する前からだ。年月がたつにつれて、T5Tメールは社内の序列をフラットにするために彼が好む方法となり、会社全体の組織原則のようなものとなった。
これは賢明かつ非常に効果的な経営戦略であり、このコラムの後半で詳しく説明する。結局のところ、これもまたジェンスン・フアン氏らしいやり方なのだ。
投資情報誌バロンズのシニアライター、テイ・キム氏は、「ジェンスンの経営スタイルは、米国企業の中で他に類を見ないものだ」と、エヌビディアに関する新著「The Nvidia Way」で指摘している。(バロンズはウォール・ストリート・ジャーナルと同様、ダウ・ジョーンズが発行している)