私も、読者の皆さんも、恐らく普段の生活のなかで、関心のあるウェブ広告をクリックすることに対してさほど抵抗はないでしょうし、ネットを通じて当たり前に消費行動をしているはずです。ただ、世の中では私たちのような存在はむしろ少数派かもしれません。リテールの店頭で買い物をしている「未開拓」の鉱脈のほうが、実はずっと大きい可能性があります。

 いかにGAFAであっても、ウェブ広告だけをしているのであれば、結局は2割のなかでの寡占、一人勝ちをしているにすぎないのかもしれません。

「看板屋」の知見を活かした現在地

 リアル空間で展開されるリテールメディアには、ウェブ広告で経験した強さを生かせる部分もありますが、それだけでは決して運用することはできません。

 ネットで消費せず、わざわざ店頭を訪れる消費者には理由があります。主に「実際に商品を見て比較、検討したいから」、そして「販売員、店員から接客を受ける価値を感じているから」です。

 何かを買うために店頭に行くということは、新しい発見をしやすく、ほかのおすすめも受け入れやすくなっていると考えられます。

 問題は、そうした人たちに、ウェブ広告のように効率のいい方法でマーケティングできるかどうかです。

 1枚1枚チラシをまいて、一人ひとりに声かけをしたり、看板やPOPの活用も有効かもしれません。ただ、費用対効果を考えると、ウェブ広告とは比較になりませんし、そもそもコンバージョンに結びついたかどうかを知ることも容易ではないでしょう。

 そこにAIカメラやデジタルサイネージが登場し、リテールメディアの可能性が広がり始めました。しかし、ウェブ広告にしか知見がない事業者には、どこにAIカメラを設置すればいいのか、どう運用すればいいのか、トラブルが起きたらどのように対応すればいいのか、恐らくすぐにはアイデアが出てこないでしょう。

 さらに、システムの後ろでどのようなプログラムを走らせ、リアル空間から得られたデータをどう分析するかについても、ほぼ未経験だと思います。

 そして、リテールの現場では、設置した部材が店舗の運営に困難を与えてはいけませんし、何より来店するお客さまの安全やプライバシーを確保しなければなりません。こうした、いわば「現場力」のようなものは、ウェブ広告のみで成長してきた方たちには恐らく蓄積のないものでしょう。

 私たちLMIグループの祖業は、群馬県でスタートした看板工事、いわゆる「看板屋」です。店名を大きく掲げる、あの大きな看板です。