「これが足りないから
ここを埋めよう」という意識を
――2000年代以降も任天堂のゲーム『リズム天国』の制作など、新しい挑戦を続けました。
K−POPの台頭で、日本人のリズム感の弱さ(リズム意識のなさ)を感じていました。スポーツ同様、リズム感を養うには子どもの頃からの訓練が重要だと考え、自分で書いた企画書を任天堂に持ち込みました。僕の子どもの頃にこんな教えを反映したコンテンツや教材があればよかったのにという思いを込めた。音楽を作るにしても「こういうもの(曲)があったら面白いんじゃないか、興奮するよな」と考え、作品にしてきました。
――世の中に「ここが足りないから埋めてやろう」という視点を持って、常に自分から行動してきたのですね。それは就活生にとっても重要です。若者はキャリア形成をどう考えればいいでしょうか。
僕はハワイに拠点を移して10年近くになります。現在の日本では大学進学率が高く、どの大学に行くかでみんな悩みますが、米国ではまず、大学へ行くかどうかが人生の分岐点となります。
米国で大学を卒業するのにかかる費用と地方に一軒家を持つ費用が同じだと言う人もいますが、大げさじゃない気がします。
高額な学費ローンを組み、働きながら何十年もローン返済してでも大学を出ることに価値を見いだすか、あるいは18、19歳から社会に出て、手に職を付けたり、資格を得るなどして、信用ある立場になって大卒並みか、それ以上に稼げるかどうかを比較し将来を考えます。
米国では腕と信用があれば、20歳でも50歳でも同じ土俵に上がって同じような収入を得られます。一方、日本は世界的に見て、公教育の水準が高く、圧倒的に恵まれている。掛け算ができ、文字の読み書きができる。大学入学時のレベルに関係なく、中学卒業の時点で相当高いレベルの知識を習得しています。
それなのに、偏差値があいつより高い低い、就職先が人気ランキング上位かそうじゃないかなど、30〜40年前の価値観のまま止まっているのかもしれません。世界基準で世の中を見回せば、もっと違うところに価値を見いだせるかもしれません。
つんく♂
総合エンターテインメントプロデューサー、TNX代表取締役社長。1968年生まれ。大阪府出身。92年「シャ乱Q」としてデビュー。「モーニング娘。」をはじめ多数のアーティストのプロデュースを手がける。ジャスラック登録楽曲数は2000曲以上。教育分野では任天堂のゲームソフト『リズム天国』シリーズが全世界累計販売本数500万本以上を記録。2014年に喉頭がんで声帯を摘出。近著に『凡人が天才に勝つ方法』(東洋経済新報社)
*後編は1月2日公開です。