甲子園優勝を人生最高の
思い出にしてはいけない

 根っからの野球大好き人間だからこそ、森林は逆説的な表現で危機感を示す。

「僕が野球をやっているのは、半分は好きだからで、もう半分は嫌いだから、というのが大きいです。野球を通して学ぶことは多いし、野球をやっている時間が好きだし、みんなで一緒に目標に向かってチーム作りするのも好きです。

 だけど一方で、今、社会が野球をどう見ているかを考えたときに、野球人口の減少というのは、野球に対しての社会からの拒否反応であって、必然だとも思うんです。世の中の賢明な親ほど、子供に野球をやらせていないんじゃないかと。だから、野球の価値とか、野球をすることの意義をちゃんと伝えたい。そうすると、野球界の中だけで閉じてなんかいられないんです」

 思い出す光景がある。2023年夏の甲子園で全国制覇を果たした翌日、新大阪の宿舎で行われた一夜明けの記者会見。森林は3年生たちにこんな話をしたと明かした。

「この甲子園優勝というのを人生最高の思い出にしないようにしよう。みんなはまだ何十年も生きていくので、これを糧にして、もっと素晴らしい経験をしてほしい」

 あの言葉の意図は、どういうものだったのか。

「そういう意識でやっていかないと、野球が本当に見限られてしまうという危機感がある。野球への危機感を、みんなにもっと持ってほしい。野球を通して、これまでのイメージとは違う人材を出していくことで、野球には価値がありますよ、と言いたいんです」

 森林は、さらにこう続けた。

「もっと言えば、それを野球だけじゃなくてスポーツ全体に広げたい。スポーツをしていると、『脳みそ筋肉でしょ』『どうせ勉強してないんでしょ』みたいなイメージで見られかねない。金メダルをとったり日本一になったりすると一時的に盛り上がるけど、エンターテインメントとして消費されるだけで、スポーツ自体の価値向上とか、存在意義を示すところには繋がっていない気がして。だから、スポーツ自体の価値をもっと高めて、スポーツの意義とか、選手へのリスペクトとか、そういうものを上げていきたい。高校野球というのは、まだ注目されているから影響力もある。そういう意味では、僕自身かなりやりがいのある仕事だと思っています」