百田氏の指摘「好きなことをするときは…」

 仕事を単なる収入源と考えるのではなく、人生の中で自己を表現し、成長する手段と捉える意識の高まりを反映しているのかもしれない。このような状況を稲盛氏が見たらどう思うだろうか。

 稲盛氏は、仕事に対する情熱を「命を懸けて打ち込むこと」と強調しており、その姿勢こそが成功のカギであると説いている。情熱が人間の持つ潜在能力を最大限に引き出し、不可能を可能にする力を持つと信じていた。実際、京セラ・KDDI・日本航空の成功は、その信念に基づくものであろう。

 そんな稲盛氏の思いに同調するように、対談相手である百田氏はこう応じている。

「最近の若い人と話していると『将来は好きなことを仕事にしたい』というんですね。夢を持っていることは素晴らしいけど、好きなことというのは趣味でしょう。『好きなことをするときはゼニを貰うんではなくて払うんや』とツッコミを入れるんですが…」(ダ・ヴィンチ)

「好きなこと」は言い訳にもなる

 確かに、対談している2人の意見はよくわかる。好きなことを仕事にするのが、いかに難しいか。また、その人がガムシャラに、一生懸命に「働かない」言い訳になっている部分もある。今、本気を出さないのは、これは私のしたい仕事ではないからだ、と。

 とはいえ、趣味をしっかり仕事に結びつけて楽しそうにやっている人もいれば、オリンピックのアスリートのように、好きなことに打ち込み続けた末に好成績を収める人もいる。

 経営学者でリスボン新大学のミゲル・ピナ・エ・クーニャ氏らによって書かれた『趣味からビジネスへ:ビジネスが加速する一方で、パラドックスを漂う』(2024年)は、好きな仕事をビジネスにしていった事例から、仕事の合理性と楽しさとのバランスについて考察している。