稲盛氏の「情熱」とスロットカー親子の「楽しさ」

《趣味がビジネスに発展する過程で「遊び」と「ビジネス管理」の間にパラドックスが生じていることが明らかになった。創業者たちは、ビジネスの真剣さを増しつつ、遊び心を保つために、対立する要素をバランスよく扱う必要があった。ビジネスに重点を置きすぎると、事業がプロフェッショナル化するにつれて、本来の趣味が単なるビジネス活動に変わってしまう可能性がある》

 稲盛氏もスロットカー親子も、仕事に「高いモチベーション」が必要であることは認識が共通している。一方で、稲盛氏の「情熱」とこの親子の考える「楽しさ」の違いには留意が必要であろう。

 このスロットカー親子にとってみれば、利益を追求するだけでなく「スロットカーの楽しさ」も忘れてはならない。それこそが仕事を続ける根源的な情熱だからだ。

 ひるがえって、稲盛氏は「働いている従業員と家族を食べさせていくために頑張ろう」という責任感と、「世のため、人のために尽くしていこう」という志が、仕事への情熱を生むと考えている。

稲盛氏が「好きな仕事」論にキッパリ!

 稲盛氏は、以下のように述べている。

「自分が好きな仕事に就けるのは非常にまれなことなんです。好きな仕事をしたいと思って選んでも、実際にその仕事をやってみたらあまり好きじゃなくなったなんていうことがよくあります。好きなことをするのではなくて、与えられた仕事、遭遇した仕事を好きになる努力が必要なんです」

「自分の仕事が好きでなかったら長続きしません。人生でうまくいくためには長く続けなければならない。長く続けるためには、好きにならなければならない。必要なのは好きな仕事に就く努力ではなく、たまたま就いた仕事を好きになる努力なんです」(ダ・ヴィンチ)

 稲盛氏は、情熱こそが人間の持つ潜在能力を最大限に引き出し、不可能を可能にすると信じていた。実際、京セラや日本航空の成功は、その信念に基づくものであり、多くの経営者に深い影響を与えた。

 他方、現代の物質的に恵まれた豊かな社会においては、趣味、好きなことの延長として始まるベンチャーも数多く存在しているのも事実である。

 これらのベンチャーは個人の興味や楽しみから発展しており、稲盛氏が説く「情熱」とはまた異なるものの、それでもモチベーションが成功を導く原動力となっていることに変わりはない。

 モチベーションにはさまざまな形があり、それぞれが成功への道を切り開く力となるのである。