ホンダは現場第一で、理屈っぽい
日産はクールに物事を判断する
ところで、筆者の祖父による生前の話で、なるほどと思ったことがある。昔は飛行機に乗ると、「日航に乗った」「全日空に乗った」とは言わずに、「ボーイングに乗った」と言っていたらしい。それがいつの間にか、機体メーカーではなく、サービス事業者(JAL/ANA)で語るようになったと。
自動車も今は、「ホンダに乗っている」「日産に乗っている」と言う人が多い。もし、飛行機と同じ流れをたどるのであれば、「ウーバーに乗った」「リフトに乗った」と話す日も近いのかもしれない。
実際に、自動車メーカーの役割が、モビリティサービスの提供者へと変容し始めている。代表的なのはテスラで、同社はロボタクシーに力を入れている。バッテリーシステムやロボットの開発もその一環だ。カーシェアリングなども含めた、総合格闘技的なモビリティサービスの展開は加速していく。
そこで、統合のデメリットというか、懸念点を述べたい。それは互いの企業文化だ。某紙が、「ホンダはベンチャー気質で、日産が役所体質」と書いていた。それはともかく、良くも悪くもホンダは現場第一で、理屈っぽい。日産はクールに物事を判断する。ずばり、これが筆者の印象だ。いずれにしても企業文化はかなり異なる。
この社風の違いを乗り越え、新たな企業文化を構築できるのだろうか。取締役会の人数も違うが、意思決定のスピードを合わせられるのだろうか。
今回の統合では、持ち株会社方式を採用し、それぞれの会社名やブランドを維持するという。維持するゆえに、根源的な改革が進まないかもしれない。
現場での攻防も想定される。「部品統合」とか「サプライヤー再編」とか言うだけなら簡単だが、実行するのは非常に難しい。というのも、開発中のものを他社の部品に置き換えるのはスケジュール的にもコスト的にも不可能である。だから、次の車種から急いで始めましょうということになるが、現場には現場の理屈がある。細かなスペックの違いがあり、なかなか統合できない。これまで自社内の車種間ですら部品統合を進めるのは至難の業だった。
ここで重要になってくるのは、強力なリーダーシップで物事を突破する力、に他ならない。自社内政治でゴタゴタしている場合ではない。全員の意見を聞いていると時間ばかり過ぎていく。だから、即断即決で物事をやり抜く勇気を持てるかどうか。それができなければ、日産は鴻海(ホンハイ)と統合したほうが“劇薬”効果はあるだろう。
いろいろ好き勝手述べたが、筆者はもちろん、この統合が日本の自動車産業全体にとってポジティブな変化をもたらすことを期待している。グローバル競争は激化しているし、日本で自動車産業が崩壊したら、国が崩壊する。インバウンド旅行者が落とすカネは重要だと思うが、日本の自動車が世界中で稼ぐカネに比べれば全く少ない。日本の自動車が世界をリードする存在であり続けるためには、大胆な変革と革新が不可欠だ。ホンダと日産の統合が、起爆剤となることを願ってやまない。
最後に、全くの余談かつ個人的な感想だ。内田誠・日産社長と三部敏宏・ホンダ社長が並んで話す様子に関して、ずいぶんと平等感を醸し出した会見だったなあと感じた。今回の統合劇は、ホンダが日産を救済した側面があるはずだ。三部社長は、何も気にせずに暴れまわってほしいものだ。