連載「片山晃 東証相場録」の第2回。今回はインターネット証券の黎明(れいめい)期や、デイトレードが脚光を浴びた時代を振り返る。売買手数料の自由化により誕生した「デイトレード」だが、当時は手法そのものに新規性があり、それに気が付いただけで収益機会があった。BNF氏やcis氏など個人投資家の台頭、ライブドアショックが襲うまでの熱狂の新興市場バブル……、その裏側で片山氏が考えていたことも公開する。
売買手数料の完全自由化により
「デイトレーダー」が誕生
2023年、SBI証券が株式現物手数料の無料化を打ち出し、楽天証券がそれに追随した。日本でも株がタダで取引できる時代が始まった。
さらに翌年の新NISA(少額投資非課税制度)開始も強力な追い風となり、市場には新たな投資家層が流入。日経平均株価が1989年以来となる最高値を更新する原動力の一つとなった。
だが、東証グロース市場250指数(東証マザーズ指数)は過去の最高値を大きく下回っている。今回は新興市場が盛り上がった時代を振り返りたいと思う。
今からさかのぼること20数年前。日本経済がバブル崩壊の長い後遺症からようやく立ち直りかけていたその頃、東証の片隅ではそれまで存在していなかった新種の投資家たちが産声を上げ始めていた。「デイトレーダー」である。
90年代後半から、日本政府は金融市場の活性化を目的として、いわゆる金融ビッグバンと呼ばれる一連の大規模な規制緩和を実行していった。その一部であった「株式売買委託手数料の完全自由化」によって、証券市場に革命がもたらされることになる。
自由化される以前の売買手数料は片道1.15%。買って売っての往復では2.3%となり、それだけで年間配当が消えるほどの重みとなる。
これでは到底短期の売買では利益を出しようもない。たとえ時間軸を伸ばしたとしても、この今から振り返れば法外としか思えない取引コストを支払いながらでは、継続的な利益創出が至難であったろうことは想像に難くない。それが対面証券しか選択肢がなかった頃の世界だ。
そこに、手数料自由化を契機としてインターネット専業の証券会社が続々と参入し、激しい価格競争を展開した。まず松井証券が、業界に先駆けて1998年に本格的なインターネット取引を開始。1918年創業の老舗が大胆な業態転換によって一躍マーケットリーダーの立場に躍り出た。
続いてソフトバンクと米ETRADEグループとの合弁会社であるイー・トレード証券(現SBI証券)、クレディ・スイス・ファースト・ボストン傘下の米DLJと三井住友銀行との合弁会社であるDLJディレクトSFG証券(現楽天証券)、ゴールドマン・サックス出身の松本大氏とソニーとが共同で設立したマネックス証券が99年に営業を開始し、これらがネット証券の大手グループを形成していくこととなった。
次ページではデイトレード黎明(れいめい)期に有名個人投資家が次々に誕生した要因、熱狂の新興市場バブルを振り返る。