ホンダ、“救済統合”を否定も日産に突き付けた「重い条件」とは?内田社長が負う十字架Photo by Takayuki Miyai

日産自動車とホンダが経営統合に向けた協議を始めると発表した。三菱自動車も枠組みに参加すれば世界3位の販売会社となるが、ホンダは日産にある条件を突き付けていた。特集『日産 消滅危機』の#10では、ホンダが求める条件とその要求の背景を解明する。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)

日産の構造改革の実行力に疑問符
問われる内田社長の覚悟

 日産自動車とホンダは23日、経営統合に向けた本格的な協議を始めると発表した。持ち株会社を設立させ、その傘下に両社が入る形での統合を目指す。実現すれば、トヨタ自動車グループに対抗する新たな勢力ができるだけでなく、販売台数で世界3位のグループとなる。自動車業界のみならず日本の製造業にとっても歴史的な転換点となりそうだ。

 日産とホンダは統合に向けた交渉で、来年6月の最終合意を目指す。東証プライム市場に新規上場申請を行い、早ければ同年8月の上場する計画だ。

 統合に向けた協議開始の基本合意には、持ち株会社の取締役の過半をホンダが指名することや、持ち株会社の社長を事実上、ホンダが指名することが盛り込まれた。

 東京都内で開かれた記者会見で、ホンダの三部敏宏社長は「モビリティの変革をリードするためには、特定分野の協業ではなく、両社の経営統合の検討を行うことが最も合理的だと判断した」と経営統合の意義を説明した。

 日産の内田誠社長は「私たちを取り巻く事業環境が想定を上回るスピードで変化している。どんな大企業であっても常識にとらわれていては未来を切り開けない。市場の勢力図が次々と塗り替わる中、スケールメリットは大きな武器になる」と強調した。

 当初8月に両社が発表した提携の範囲は、電気自動車(EV)の開発に限られていた。ソフトの能力がクルマの性能を決めるソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)が普及する時代を見据えた車載ソフトの共同開発が協業の軸だった。

 今回の経営統合に向けた協議では、EVの開発に限らず、生産拠点やサプライチェーンの最適化、自動車ローンなどの金融販売機能の統合などでもシナジー効果の発揮を狙う。

 日産と資本関係にある三菱自動車は、統合の枠組みに参画するかどうかを来年の1月までに判断する。三菱自動車の加藤隆雄社長は同日の会見で、「当社が得意とするアセアン事業や、ピックアップトラックの製造技術を2社のグローバル展開に役立てることができる」と話した。

 ただし、今回の発表で統合が決まったわけではない。あくまで、統合に向けた協議を始めたと正式に発表したに過ぎない。財務面でも販売面でも優位に立つホンダは、前述の持ち株会社の取締役の選任についての条件以外にも、日産に「重たい要求」を突き付けていた。次ページではホンダが日産に出した要求とその背景を明らかにする。