広く感じさせるには、シンプルに見せる
安:まさか(苦笑)、それはありません。5ナンバーサイズは全幅などに制限がありますから、物理的な広さを拡張するのには限界があります。「広い」と感じるのは感覚的な要素が大きいと思います。要は見せ方ですね。例えば、シートだったらショルダー部分を削って、後ろから前方をスッと見通せるように造ったり、パネルを直線基調にしてスッキリと見えるようにしたり、ピラー部分の余計なラインを消して、とにかく中から外がよく見えるようにしたり……そうした工夫の積み重ねです。
F:シートの肩部分を削る。
安:肩の部分がしっかり張り出した立派なシートは、それはそれでもちろん非常に価値があります。シート1つ取ってみても、「立派」という価値観を取るか、室内の「開放感」を取るかによって、ショルダー部分のデザインの仕方は大きく変わってくるんです。ひとつひとつの視覚的要素を人間工学的な観点で見ていくと、どういう処理をするべきか、ということが分かってくると思うんですね。広く感じさせるには、まずシンプルに見せる。
F:なるほど。
安:色彩もそうです。明るい色を使うと開放的に見える。一方で明るい色は汚れが目立つというデメリットがある。だから汚れやすい下の方は黒っぽくて汚れが気にならない色を使いながら、上の方はできるだけ明るくして広く見せるとか。形のデザインだけでなく、カラーリングと合わせて考えなければいけません。
F:そんな工夫まで……。安積さんはもともと何屋さんなんですか?
安:私の出身は外装設計です。若い頃はドアミラーとかワイパーとかヘッドライトなどの設計をやっていました。
F:クルマ全体を取りまとめられたのは今回が初めてですか?
安:いえいえ、今までに何台もやってきました。フリードの前は、日本で「グレイス」と呼ばれていた、アジアで販売しているシティのハッチバック。あの世代の開発責任者をやり、その前はS660を裏から支援。さらにその前は第4世代アコードの開発責任者代行でした。1番最初はエアウェイブというクルマの開発責任者代行です、だからもう代行を含めればLPL(注:ラージ・プロジェクト・リーダー、開発責任者のこと)の経験は25年ぐらいになりますね。