私はコンサルティングファームに所属していた当時は、価格破壊型のビジネスモデルに強い興味を持っていて、今の勝ち組と言われる企業のことをずいぶん古くから研究していました。

 ユニクロで最初に服を買ったのが1980年代でしたし、100均はまだ零細企業だったころから利用していました。ちなみに回転寿司はさらに昔の大学時代からのファンです。

 それでデフレが本格化した90年代後半に、社内でこれら勝ち組企業についてのプレゼンをしました。そのときの反応はまさに「塩対応」といっていいほどの無反応だったことを覚えています。経済に敏感なコンサルタントの間でも「安かろう悪かろう」と「お値段以上」の区別がついていなかったのです。

 ユニクロが国民的ブームになったのがその2年後でしたが、圧倒的な人気がある一方で、ファッションとしては一段も二段も下に見られていたものです。

 当時の雑誌の企画でユニクロとラルフローレンのオックスフォードシャツをそれぞれ分析して、材質から縫製の細部までまったくそん色がないことがわかってもなお「でもユニクロでしょ?」とさげすまれたのでした。

 その風向きが変わったのは、私の実感としては2005年ぐらい。日本経済が一番悪かった時期であり、日本がデフレに突入してから10年もたった後のことでした。お値段以上がブランドに変わるまでにはタイムラグがあるのです。

 私の現時点での予測では、中国のデフレ経済はこれから長く続くでしょう。

 今の政策を見るかぎり、おそらく10年では不良債権は処理できないはずです。ですから中国経済はこれから日本が2000年代初期に経験したのと同じような時代を経験するはずです。

 その前提で今の中国の中流層は、1980年代にバブル経済を経験した日本の中流層と視点が似ています。急にお金持ちになって、急に贅沢な消費を愉しめるようになって、まだ「高い物のほうが優れている」というメガネで世の中を見ているのです。

 実際はこの先、収入が増えないとしたら、ユニクロで服を買って、百均で日用品を買って、食事は回転寿司で楽しめばいいのです。

 でもファッションにはもっと上のブランドがありますし、外食だって高くて美味しいお店はいくらでもある。だから「お値段以上のお店」に行くのはなんとなく都落ちしたような嫌なイメージをもってしまうのです。

 日本では中流よりも先に、庶民が先頭にたってユニクロ、100均、サイゼリヤを支持しました。同じ理屈でいえば、中国でもこれらの日本企業を支持するのは庶民が最初で、中流層が本格的に利用を始めるのは中流層が庶民に戻った後、おそらく2028年以降になるでしょう。

 つまり中国経済がダイナミックにデフレ経済へと転換するまでにはタイムラグがあるのです。

中国でサイゼリヤブームが
起きるのは「3年後」

 だとすればサイゼリヤの未来を予測するのに、前年同期比を持ち出して「既存店売り上げが10%落ちた」ことを気にするのは意味のない杞憂ではないでしょうか。

 そうではなく、考えるべきなのは10年後、2035年の中国市場にどれだけの数の庶民が溢れているのか?そしてそれら庶民がかつての中国市場で主流だったような安い飲食店を利用するのか、それともお値段以上の価値があるサイゼリヤを利用するのかについての予測ではないでしょうか。

 私は10年後のサイゼリヤは中国市場で勝ち組になると予測していますが、一方でそこまでの道は非常に長い道のりになるとも同時に予想しています。