また、株価の理論価値は、将来の1株当たり利益キャッシュフローを現在価値に換算したものだ。現在価値に換算する場合の割引率は、国債など無リスク資産の利回りとリスクプレミアムの合計である。割安株に比べると期待成長率の高いこれらハイテク成長株は、金利上昇による割引率の上昇による現在価値の減少率も大きくなる。つまり金利上昇局面ではハイテク成長株の株価下落の度合いが相対的に大きくなる。これは2022年の米国の利上げ・株下落局面で経験した通りだ。

日本株と米国株の合成ポートフォリオの優位

 さて、最後に近年の人気投信の双璧であるS&P500と全世界株価指数を使ったインデックスファンドの過去20年間の積立投資のリスク&リターンを見ておこう。私自身が保有しているインデックスファンドはS&P500(2006年以来)、日本株はTOPIX(東証株価指数)と日経平均株価指数連動のものであり、全世界株価指数に連動するファンドは保有していない。

 図表3は日本人が円資金で過去20年間毎月末に定額積立投資(配当再投資ベース、税引き前、運用手数料ゼロの想定)をした場合の株価指数別のリスクと年率リターンである(時点は2024年12月末)。

 データは米国の投資情報会社モーニングスター社のものを使っているが、極めて近似している他の株価指数(S&P500、TOPIX、MSCI ACWI、MSCI Emerging等)も併記している。計算に使用したソフトは、筆者が企画・開発し、NPO法人FIWAのサイトで公開している「FIWAつみたてインディくん」である。

 横軸はリスクであり、資産リターンの変動性の高低を示している(前月比データで計算した標準偏差を年率換算)。縦軸のリターン(年率)は、20年間の定額積立投資のキャッシュフローに基づく内部収益率(IRR)を計算したものである。

 米株価指数と日本株価指数(青色)、並びにインド株価指数と中国株価指数(オレンジ色)が数珠状につながって左に凸の形状をしている点にご注目いただきたい。曲線上の各点は2つのインデックスの比率を10%ずつ変えた場合の合成ポートフォリオのリスク&リターンを示している。2つのインデックスの間にある程度のリスク分散効果が働いているため、合成ポートフォリオはリスクが低下し、やや左に凸の形状をしている。

 投資の成績は、単にリターンが高ければ良いのではなく、リスク対比でのリターンの高さが問題になる。従って、図表3の左上に位置するほど望ましい。この観点から見ると、過去20年間では米株インデックスファンドの一人勝ちである。そして米株価指数と日本株価指数との間には弱いながらもリスク分散効果があるため、合成ポートフォリオはやや左に突き出している。

 一方、全世界株価指数(赤色)は、日米の合成ポートフォリオよりも右側に位置しており、リスク対比のリターンが劣っていることが分かる。その主要な理由は、全世界株価指数が含んでいる欧州や新興国の株式銘柄がS&P500に比べて大きく劣後しており、しかもTOPIXのようにS&P500との間でリスク分散効果が働いていないことを意味している。

 さて、以上まとめて現時点での筆者の中長期的な方針をコメントすると、米株価指数はPERも割高であり(S&P500平均見込みPER 21.4倍)、株式ポートフォリオに占める比率を多少下げた方が良さそうだと考えている。一方、日本株の平均PERは日経平均4万円近辺でも16倍前後と割高感がなく、積立投資を継続する。著しく割安感があり、高配当のJ-REITの各種銘柄も昨年から買い増した。

 もちろん、本論考はあくまでも過去のデータに基づく事実を分析したものであり、特定の運用商品を推奨、あるいは非推奨するものではない。投資判断は読者各自の自己責任に基づいてお願いしたい。

(竹中正治 龍谷大学経済学部教授)