インベスターZで学ぶ経済教室『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第155回は、自己肯定感をアップさせる手軽な方法を指南する。

「金の延べ棒」が自信になる?

 主人公・財前孝史は投資部の世話役の「ゼンさん」が“道塾のジゴロ”の異名をとるモテ男であることを知る。ゼンさんはある教員からの恋愛相談に応じて、恋愛の成功の秘訣は「自信を持つこと」と言い切り、一手段として金への投資を勧める。

 恋愛という特定分野で「自信を持つこと」にどれほど効用があるのかは経験不足で判断しかねるが、自信や自己肯定感が人生全般を通じて大事なことは確かだろう。自信過剰は考えものとして、足りなすぎれば一歩踏み出せない。

 作中では「金の延べ棒を持てば自信がつく」という例が挙げられている。奇抜は発想ながら、これは実際に効果がありそうだ。「自分にはコレがある」と思えるモノや場所、仲間を持っている人間は強い。

 目の前の相手や状況を相対化して、冷静に振る舞えるからだ。嫌な上司が職場にいても、「それ」がすべてではないと思えばダメージは小さくできる。

 私が自信をつける手段としてオススメしたいのは、「自分を肯定する言葉を声に出す」のを習慣化すること。根拠はなくていいし、何なら事実と反していてもいい。

 ただただ、自分を褒めて、持ち上げる。それを口に出して、できれば誰かに聞いてもらう。言霊の力で、やや強引に自己肯定感を上げてしまうのだ。

 この技は子育ての中で発見した。長女が小さかった頃、私の口癖は「お父さんはイケメンで天才」だった。娘とのふざけた会話の定番フレーズだった。お断りしておくが、本気でそう思うほど、私はアホではないし、自意識は肥大化していない。

長女に起きた「意外な変化」

漫画インベスターZ 18巻P73『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 ただのネタだったはずのこの習慣には、意外な効果があった。娘に伝染したのだ。

「イケメン!天才!すごい!」と無邪気に称賛する側だった長女は、いつの間にか「私はすごい!」と自己肯定のセリフを連発するようになった。もちろん特に根拠はなく、ただの父親の真似だった。

 タダのバカ親子のようだし、それを否定はしない。だが、こうしたやり取りには「自分を褒めるハードルが下がる」という効果があったのだ。

 根拠がなくても自分を肯定できるなら、例えば少しテストの結果が良かったとか、原稿がうまく書けたとか、そんなちょっとした材料でもあれば、余裕で自分を絶賛できる。

 ただし、そんな空疎な自画自賛だけでは健全な自己肯定感は作れない。もうひとつのファクターは「諦め」。私の持論は「言霊7割、諦念3割をもって自己肯定感は成る」だ。

 諦念とは「自分は大した人間ではない」と正しく自己認識すること。言霊による自己賞賛と矛盾するようだが、普通の人間なら早ければ思春期、遅くとも20代か30代には、自分がイケメンでもなければ天才でもないと気づく。本来、自己肯定感とは、そんな等身大の自分を肯定することのはずだ。

 しかし、「普通の私」あるいは「ダメな私」という自己認識から入ると、自信や自己肯定感は育ちにくい。発射台が低いと、等身大の自己評価すら持てず、「自分なんて」という思考に落ち込みやすい。だからこそ、言霊の力を借りて、まずは発射台を上げておいた方が良い。

 ご紹介した方法に興味のある方は私のnote「『自己肯定の鬼』の育て方」をご一読ください。

漫画インベスターZ 18巻P74『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 18巻P75『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク