まず、ホンダと日産の統合が破談になる可能性が捨て切れない。今回の経営統合は両社が理解を深めた上でジャッジしたわけではなく、買収防衛目的で講じた次善の策にすぎない。

 日産が身を切るリストラ計画を策定し、かつ実行に移せるかどうか。止血作業を終えて身奇麗になった上で、統合前の2026年3月期決算で黒字計画を示せるかどうか――。そのハードルは高い。

 次に、ホンハイは日産の買収を諦めたわけではないとされており、日産争奪戦は続いている。ホンハイが狙っているのは、ルノーが持つ日産株式約35%(ルノー保有分と信託会社保有分の合計)だ。

 ルノーの背後にいるフランス政府は、ルノーと業績悪化に苦しむ蘭ステランティスとの統合を画策しているとされ、ルノーの日仏3社連合からの離脱を急ぐかもしれない。日産株をできるだけ高く、できるだけ早く売却できるのはホンダ陣営とホンハイのどちらなのか。予断を許さない。

 最後に、ホンダ・日産連合には政財官の利害関係者が関わっており、その関係者の多さが統合交渉の行方を左右しかねない。

 日産の盟友だったルノー、日産のメインバンクのみずほ銀行、ホンダと三菱自動車のメインバンクである三菱UFJ銀行、経済産業省、そして日産の経営不振に付け込むアクティビスト──。登場人物の思惑がうごめいており、妥結点を探るのは難しい。

 特に、アクティビストの動きには注視が必要だ。アクティビストの標的となった東芝がそうであったように、日産経営陣の経営改革にプレッシャーをかける「劇場型」の手法を講じる場合が多く、統合交渉のかく乱要因となり得る。

 日産株主の価値を最大化できるパートナーがホンダなのか、ホンハイなのかといった視点での追及も出てくるだろう。

三菱自動車が頼れるパートナーは
実は、日産よりもホンダ

 統合の行方に不透明感が漂う中で、存在感を増しているのが三菱グループ3社だ。自動車業界では弱小の三菱自動車がプレゼンスを発揮しているのはなぜなのか。

 日産と三菱グループの関係が緊密になったのは16年のこと。日産のカルロス・ゴーン氏が、燃費偽装問題で揺れる三菱自動車に買収を仕掛け、三菱自動車はルノー・日産アライアンス傘下に入った。

 がぜん、三菱自動車の評価が上がっているのは、国内3社連合を主導するホンダと三菱自動車に補完関係が成り立つからだ。

 ホンダにとって、三菱自動車の魅力は三つある。まず、プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」の商品力が強い。商品展開として、ホンダが持っていないピックアップトラックも持っている。最後に、現地生産から撤退した北米事業の収益性が高く、ホンダの販路を生かせることだ。

 そして、三菱自動車が日産と圧倒的に違う点は、大掛かりなリストラを済ませている点だ。21年3月期まで2期連続の最終赤字に転落するなど経営危機に陥ったが、人員削減や生産ラインの固定費削減に切り込むなど抜本的な構造改革に踏み切った。その後、中国生産からの撤退という難易度の高い経営判断も下している。

 三菱自動車にとっても、ホンダと組むメリットは大きい。北米事業の利益率が回復したとはいえ、米トランプ政権の誕生により、日本から輸出する際の関税リスクが高まっている。主力のASEAN地域の収益性が低下しており、三菱自動車が単独で生き残ることは難しく、頼れるパートナーが必要であることは厳然たる事実だ。

 そして、そのパートナーは日産よりもホンダの方が相性は良い。双方のメインバンクは同じ三菱UFJ銀行だ。

 仮に、ホンダと日産が破談となった場合でも、ホンダと三菱自動車が接近する公算は大きい。その際には、三菱自動車とASEANで協業している三菱商事の意向が鍵になるだろう。