カウンセリングビジネスや
高額治療に注意
医学的に病名ではないことばが社会に広く知られるようになり、ひとり歩きすることは古今東西、ありがちな現象といえます。ただ、現在のネット社会では情報の拡散スピードが非常に速く、それに比例するように医療情報の内容が変化していき、病気の本質が誤って伝わりやすいことから問題が生じています。
五月病、HSP、カサンドラ症候群はメンタルの不調に、また、自律神経失調症は心身の不調に基づくことばですが、その本質的な意味、概念は適切に伝わっているでしょうか。
「このつらさは病気の症状なのか」と迷うことはとても多いと思われます。迷って不安なとき、ネットなどで見つけた、実は不適切であるにもかかわらず刺激的な意見や情報に注目してしまうことがあるかもしれません。
ネット、テレビ番組、雑誌などには、「あなたは○○○○(病名や症状が入っている)かも」というようなチェックリストや、克服の方法といった情報があふれています。そのリストや克服法は、医学的なエビデンスに基づいた確かな内容なのでしょうか。
田近亜蘭 著
「病気や病名ではないのだから、メディアや企業、団体、個人がどのように表現しようと自由だ」という考えや、自分好みの刺激的な情報を鵜呑みにし、それを拡散するといった行為はたいへん危険です。
弱気になっているときにこういったチェックリストを試してみると、ほとんどの項目が自分に当てはまるように感じられるかもしれません(しかし、実際にはそんなことはありません。誰にでもある心理効果が働いているのです)。
流行していることばを用いたり、人の不安をあおる表現を使ったりして、自由診療で高額な費用をとるクリニックや、専門家ではない人によるカウンセリングといったビジネスも急増していると聞きます。
また、チェックリストの結果から、あなたはこうだと、あたかも不健康だという表現で高額な健康グッズや食品の購入に誘導している場合もあるでしょう。これらは社会問題に発展しています。
くり返し述べますが、つらい不調が続く場合、何らかの病気が隠れている可能性があります。ここで紹介したように、病名ではないけれど、健康を害しているような意味合いのことばに接する際には、自らのヘルスリテラシーが重要な役割を果たすでしょう。