コンピュータにメモリ(主記憶)は必須です。そのメモリとしてはDRAMが広く使われてきましたが、いまメモリ技術は転換期を迎えています。

 これまでDRAMは半導体微細化により、記憶容量を増やしてきましたが、微細化とともにDRAM内で情報を記憶するために保持する電荷量が少なくなり、原理的な限界を迎えつつあります。その解決策としてDRAMの情報記憶原理そのものを見直すか、スタッキングと呼ばれるDRAMの積層化技術があります。しかし、前者は新しい原理が出てくると限りませんし、後者も抜本的な解決とはいえません。

 そこで有力視されているのが、前回説明したように次世代メモリのうち、不揮発性メモリをDRAMの代替に利用する方法です。ただし、DRAMのような揮発性メモリと不揮発性メモリでは機能が違い、単なるDRAMの置き換えにはとどまりません。

 前回はその影響としてノーマリーオフコンピュータとセキュアコンピュータの話を書きましたが、今回はハードディスクやSSD(記録媒体としてフラッシュメモリをもちいた記憶装置)などの補助記憶装置との関係から、不揮発化メモリの影響を考えていきましょう。

メモリとハードディスク/SSDの区別は不要になる!?

 ノーマリーオフコンピューティングを前提にしてなくても、不揮発性メモリはOSやアプリケーションに大きな変化を求めます。いま皆さんが使っているアプリケーション、例えばワープロソフトでも表計算ソフトでも、作成・編集中の文書や表は主記憶におかれ、作成・編集後はハードディスクやSSDなどからなる補助記憶装置にセーブ(Save、保存)します。セーブという言葉が示すように、DRAMにおかれた情報は電源が切れると消えてしまうので、情報を不揮発性の補助記憶装置に残すことで、消えないようにセーブ、つまり救っています。

 でもコンピュータの主記憶がDRAMから不揮発性メモリに変わると、主記憶中の編集中の文書や表は電源が切れても失われなくなります。そうなるとユーザやアプリケーションが、主記憶上の文書や表などのデータを補助記憶装置にセーブする必要ははたしてあるのでしょうか。

 実際、不揮発性メモリによる主記憶の場合、主記憶と、ハードディスク、SSDなどの補助記憶装置には機能的な違いはありません。違いがあるとすれば、それは主記憶で利用される不揮発性メモリは高速アクセスである一方で、容量が少ないことぐらい。このため、当面の処理に使わないデータを保管するための装置として補助記憶を使うので、直ちに不要になるわけではありませんが、補助記憶装置の位置づけは変わってきます。

 また、機能が同じならば、いまのOSのように主記憶と補助記憶装置を区別する必然性はなくなり、むしろ機能が同じならば統一的に利用できる方が便利なはずです。実はこれを先取りした例はあって、単一レベル記憶(Single-level store)と呼ばれる技術で、一部のミニコンで使われている技術です。単一レベル記憶をサポートしたOSはアプリケーションに対して、主記憶装置と補助記憶装置の区別をせず、一つのアドレス空間でアクセスできるようにしています。今後、こうした技術が大きく注目されるでしょう。

 さて、いまのコンピュータは文書に限らずデータをファイルという形式で、補助記憶装置に保存します。ただし、ファイルは補助記憶装置にデータを保存・整理することを前提に作られた概念です。主記憶の不揮発化により、主記憶と補助記憶装置が区別できなくなったとき、ファイルというデータの保存・整理単位が適切なのかも再考されるべきです。

 いまのOSやアプリケーションにおいて、ファイルという概念は根幹となるために、そのファイル概念の変化または消失はOSやアプリケーションを大きく変えることになります。