活動レベルを超えてシンクロする
人間と犬の「心拍変動」

 長く離れていた飼い主が久しぶりに家に戻ってきた際、犬が飼い主に嬉しそうに抱き着く動画はYouTubeなどでよく見かけます。このように犬が飼い主に深い愛情を示すことは広く知られていますが、今回の研究で、愛犬と一緒に過ごす飼い主の心臓の鼓動の変動が愛犬にシンクロすることが明らかになりました。

「心拍変動」とは、心臓がドクンドクンと脈打つ長さのゆらぎを指し、自律神経系の状態を示します。リラックス状態では心拍変動が高く、反対に心拍変動が低ければ、ストレスを受けていることがわかります。つまり「心拍変動」は“心や感情の状態を告げる指標”と考えることができるのです。

 例えば、ゆっくりと休んでいる間は、飼い主と犬の心拍変動がともに高まり、飼い主がリラックスしているときには犬も同様にリラックスしていたということです。遊びのような作業を行っていると時、飼い主と犬の活動レベルはほぼ同じだったこともわかりました。

 特に重要なのは、心拍変動のシンクロと活動レベルのシンクロは、必ずしも同じタイミングで起きていなかったことです。体を動かして何か活動すれば、それによって心拍が変動するのは当然です。しかし、それが同時に起きていないということは、飼い主と犬の心拍変動のシンクロは単純に活動レベルを反映しているのではなく、両者の感情状態がシンクロしているだろうことを示しています。

 ちょうど同じタイミングの2024年9月、科学雑誌『Advanced Science』に掲載された中国科学院(CAS)による最新研究では、人と犬が見つめ合ったり、撫でたりすると、お互いの“脳波”がシンクロしていることがわかったとの結果が発表されました。

 脳波のシンクロは人と人の間ではよく知られていますが、人間と他の生き物との間で確認されたのは今回が初めてです。「心拍変動」に加えて「脳波」においても、人と犬がシンクロしていることが明らかになりました。