旧ビッグモーター問題で大揺れに揺れた損害保険ジャパン。その持ち株会社であるSOMPOホールディングスもガバナンスの欠如を問われ、両社のトップが辞任するに至った。その後を継ぎ、SOMPOグループの再建に取り組む奥村幹夫グループCEO(最高経営責任者)を、参謀役であるCFOとして支える濵田昌宏氏。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、濵田氏が「重い決断」だという戦略の要諦を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
2代目CFOに就任した濵田氏
職域は財務戦略だけにとどまらない
――経営企画部門のキャリアが長い印象です。
安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)に36年前に入社し、営業や商品開発などに携わってきました。2009年に経営企画部に配属されて以降は、課長や部長、役員など肩書は変わりましたが、ずっと経営企画部門です。珍しい経歴だと思います。
というのも、CFO(最高財務責任者)のバックボーンとなり得る経理部門や資産運用部門を経験していないからです。故に、CFOへの就任は予想外でした。ただ、経営企画部門で事業計画の策定や管理に携わる中で間接的にファイナンスに関する知識を身に付けたことや、各事業の収益構造を理解できたことが支えになっています。
――CFOができたのは最近ですね。
持ち株会社のSOMPOホールディングス(HD)は、17年からCxO制度を始め、19年に2代目CFOとなりました。当社のCxOは呼称だけではなく、役割に応じた職務内容が明確化されており、いわゆるジョブディスクリプションとして定まっています。報酬も市場価格に連動しているだけでなく役割にひも付いていますので、常務も専務も同じ報酬です。
また、担当役員という概念をやめて、CxOの下にサポート部が付き、企業価値向上に向けて何が必要か、CxOが自ら考えて実行するスタイルを取っています。要は、CxOがみこしに乗って各部から上がってくる仕事をさばくのではなく、配下の部にサポートしてもらうという考え方です。これは、変革やトランスフォーメーションを志向する当社の経営スタイルにのっとったものといえます。
――昨年までCSO(最高戦略責任者)を兼任されていました。
CSOというのは、日本でよくある経営企画担当役員のことを指します。これまでのキャリアの延長でCSOを務めていました。こうした経営企画部門というのは、欧米にはほとんどありません。それは、グループの経営戦略を考えるのはCEO(最高経営責任者)の仕事だという認識があるからです。そして、CEOが将来ビジョンや経営戦略、中期経営計画などを策定し、その参謀役としてCFOがいるというわけです。
当社でも、奥村(幹夫グループCEO)が海外事業を離れトップになったことで、CSOをなくしました。つまり、CFOが財務領域だけにとどまらず、中計の策定や資本の配分などについてCEOを補佐し、具体化する役割を担っています。そのため、財務戦略はもちろん、人事戦略やデジタル戦略、新事業などの主要な会議に参加しています。
――一連の不祥事では、損保ジャパンだけでなく持ち株会社のSOMPOHDのガバナンスにも厳しい意見が相次ぎました。
損保業界で起こった一連の不祥事では、最も厳しい批判を浴びることになったSOMPOグループ。その反省を含めてさまざまな施策を打っているが、濵田CFOが手掛ける財務戦略とは何か。また、急ピッチで売却が進む政策株の売却益を成長投資に振り向けようとしているが、そのスピードを加速せざるを得ない「重い決断」を行っている。次ページでは、その理由を明かしてもらった。