
エレクトロニクス大手の三菱電機の株価が好調だ。2022年頃までは1500円を下回っていたが、現在は3000円を超えている。株式市場の高評価の背景には、大胆なポートフォリオの組み替え戦略がある。今後3年で1兆円のM&A投資枠を設ける一方で、今年度中に売上高で8000億円規模の事業を終息させるかどうかを見極めるというのだ。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、今年4月に三菱電機のCFOに就任した藤本健一郎氏を直撃。藤本CFOは、現在の3割増にあたる時価総額8兆円を目指すと断言。巨額投資に伴う財務規律のあり方に加え、事業撤退の考え方についても語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
時価総額8兆円に向けた三菱電機の財務戦略
藤本CFO「今の株価にはまだ満足していない」
――今年4月に財務統括部長からCFOに昇格しました。
キャリアの中でコーポレート部門にずっといたわけではなく、事業本部に属していた期間も長くありました。事業本部にいながら経理業務に携わっていたこともあります。
経理財務部門は、事業を管理する立場なのでリスクを回避する(ことを優先している)と思われがちです。確かに無用なリスクを冒す必要はないのですが、事業部にとってリスクは回避するものではなく、マネージするものだと思っています。そう考えられるようになったのは、私自身が事業部門に長くいたからだと思います。事業を管理するのではなく、伴走していきたいですね。
財務統括部長時代も財務戦略には取り組んできましたが、CFOになってから直接投資家の方々と話すようになったのは大きな変化です。これまで以上に、資本市場を意識するようになりました。
投資家や証券アナリストの方々からは厳しい指摘もありますが、それは当社の企業価値がまだまだ上がる余地があるという期待の表れだと感じています。
――2022年頃までは株価は1500円を下回っていましたが、直近では3000円を超えています。
今の株価にはまだ満足していません。「コングロマリットディスカウント」という言葉がありますが、「ディスカウント」を「プレミアム」に変えていくことで、企業価値を3割程度は増加させられるのではないかと思っています。
現在の時価総額が6兆円強ですので、8兆円ぐらいを目指したい。具体的な数値目標を掲げているわけではありませんが、それぐらいの意気込みで企業価値向上に取り組んでいきたいです。8兆円も通過点だと思っています。
――今後3年で新たに1兆円のM&A投資枠を設けました。投資と財務健全性のバランスをどう取っていくのでしょうか。
次ページでは、巨額のM&A投資枠を設けた一方で、売上高で8000億円分の事業を終息させるかどうか判断すると打ち出した三菱電機の財務戦略を藤本CFOが語る。事業撤退に関しては、投資家からの「耳の痛い指摘」も明かした上で、どのように進めていくか解説する。さらに、全社で進行中の組織風土改革が経理財務部門に及ぼす効果にも言及している。事業部門の経験が長かった藤本CFOだからこそ語れる経理財務部門の役割とは。また、CFOとしてベンチマークにしている企業名も明かしてもらった。