生保・損保・代理店の正念場#10写真:つのだよしお/アフロ

中古車販売大手のビッグモーターが行った保険金不正請求の問題。SOMPOホールディングスと損害保険ジャパンの両トップが辞任に至っただけでなく、損保業界全体を揺るがす事態となった。特集『生保・損保・代理店の正念場』(全31回)の#10では、問題の構造と経緯を詳述する。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

損保ジャパンのトップ辞任に至った
ビッグモーター問題の構造と経緯

 社会問題と化した中古車販売大手、ビッグモーター(BM)による保険金の不正請求事件。代理申請会社を務めていた損害保険ジャパンを筆頭に、損保業界全体を揺るがす事態に発展した。その構図と経緯を改めて振り返っていこう。

 BMのような中古車販売店は自動車を販売するだけでなく、自動車保険の販売を行う損保代理店でもある。自動車を購入する際に保険に加入できるため、ユーザーにとって便利な存在だ。新車ディーラーも同様で、こうした代理店は兼業代理店と呼ばれている。

 損保会社からすれば、保険を大量に販売してくれる大得意先となるわけで、自社の保険販売を優先してもらうために、さまざまな便宜供与を図っている。その一つが、事故車の入庫紹介だ。

 事故時にBMの板金工場をユーザーに紹介するというもので、BMにとっては放っておいても顧客が舞い込んでくる仕組みだ。その見返りに損保会社は、自動車損害賠償責任保険(自賠責)を割り振ってもらったり、自動車保険を優先的に販売してもらったりする。まさに、もたれ合いの構図だ。

 ところが、この入庫紹介で持ち込まれた事故車にBMが故意に傷を付け、保険金の水増し請求を行っていたのがこの問題の発端だ。

 2021年11月に、BMの不正事案を内部告発で知った損保各社は、実態の解明に動いた。ところが、強硬姿勢を貫いた東京海上日動火災保険と三井住友海上火災保険に対して、BMでの保険販売のシェアが最も大きい損保ジャパンは途中から及び腰になっただけでなく、22年4月に社長に就任した白川儀一氏に報告も上げていなかった。

 その白川氏がBMの不正を初めて知ったのは、同年5月のこと。東京海上の広瀬伸一社長(当時)と三井住友海上の舩曵真一郎社長と共に資生堂の役員を囲む会に出席した後、広瀬氏と舩曵氏がBMへの対応を話しているのを聞いて初めて知ったのだ。さらに、舩曵氏からBMへの対応を聞かれたが答えに窮するしかなかった。

 白川氏にとって屈辱的な出来事だったろうが、この後、事態を矮小化させようとする幹部たちの言動により、最終的に白川氏は誤った判断をすることになる。

 次ページでは、白川氏をはじめとする損保ジャパンが判断を誤った5~7月の経緯を詳述する。