
西武ホールディングス(HD)は2025年2月末に複合商業施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」を米系投資会社ブラックストーンに約4000億円で売却した。西武HDは新型コロナウイルスの感染拡大による鉄道収益の大幅減を受け、不動産回転型ビジネスへの転換を進める。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、財務担当役員の古田善也氏に、東京ガーデンテラス紀尾井町の売却を決めた理由や、売却益を元にした今後の投資方針などを聞いた。
4000億円で旗艦ビル売却の理由は
経営改革の「本気度を示すため」
――東京ガーデンテラス紀尾井町の売却を決めた理由は何ですか。
2024年5月に、35年までの長期戦略を公表しました。その中で不動産事業を核とし、資本効率を向上させる経営戦略を掲げました。不動産事業はこれまでは賃貸が中心でしたが、大きくは成長しません。そこで不動産を流動化する回転型ビジネスに参入し、成長ドライバーとするために東京ガーデンテラス紀尾井町の流動化に着手したのです。
――参入判断の背景には、変わらざるを得ないという危機感があったのですか。
一番大きいのは、新型コロナウイルスの感染拡大による経済クラッシュです。景気にかかわらず会社員や学生は定期券を必ず買ってくれるため、鉄道は安定したビジネスだと思っていましたが、コロナでそれが崩れることが分かりました。
鉄道業は固定費が大きい装置産業なので、売り上げが立たなければ損失が大きい。こうした状況を踏まえ、西武ホールディングス(HD)としてリスク耐性の強い経営体制を目指したいと考えました。これが今回の経営改革の一番の動機です。
――その第一歩として東京ガーデンテラス紀尾井町を流動化の対象としたのはなぜですか。
平たく言えば本気度を示すためです。東京ガーデンテラス紀尾井町を開業したのは9年前ですが稼働率の良い状態が続いています。良い開発をしたものですから、裏返して言うと、さらにバリューアップする余地はあまりない。そうした観点から流動化の決断に至りました。
――売却先にブラックストーンを選んだ理由は。
今回の応札プロセスの中では、さまざまな方から関心を持っていただきました。その中でわれわれとして、このアセットの価値を一番評価いただける方に譲渡する方針で議論を重ね、ブラックストーンを選びました。
ブラックストーンが今後はオーナーになり、われわれはホテルのオペレーションなどのプロパティーマネジメントを引き受ける形に立場は変わりますが、お客さまから見たらホテルは引き続きザ・プリンスギャラリーなので、これまで以上に評価いただけるようにしなければならない。ブラックストーンが持つ知見をうまく掛け合わせて、これまでお使いいただいたお客さまだけでなく、これからお使いいただくお客さまにも評価いただけるものを目指します。
現状ではマリオットと提携しており、室料収入ベースで半分以上は欧米のお客さまにご利用いただいています。この状況をブラックストーンはよくお分かりだと存じますし、われわれとしても彼らの知見をオペレーションに反映していきたいと考えています。
――では東京ガーデンテラス紀尾井町の売却で得た資金を、どのように使うのですか。
東京ガーデンテラス紀尾井町を4000億円で売却したことで、西武HDは2604億円ものキャッシュインを見込む。企業価値向上に向けて、西武HDはどのような事業投資に打って出るのか。次ページで古田氏が具体的な投資戦略に加え、独自の経営指標「西武ROIC」を導入した狙いなどを明らかにする。