
国内製薬5番手(売上高ベース)の中外製薬がなぜ時価総額で業界トップに君臨できているのか。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』では、2024年からCFO(最高財務責任者)を務める谷口岩昭氏が重視する財務指標や製薬企業の企業価値を株価として顕在化させるための戦略を解説。研究開発投資の戦略に加え、今後、構造改革が必要と考える部門についても明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 野村聖子)
武田薬品も中外製薬も
長銀時代からの付き合い
――中外製薬へ入社する以前、2004年から12年間は武田薬品工業に在籍されていました。M&A(企業の合併・買収)で事業エリアを大幅に拡大し、14年には初の外国人社長であるクリストフ・ウェバー氏を迎えるなど大きくグローバル化にかじを切った時期に当たります。
武田薬品では入社直後の04年から米国・欧州持ち株会社の社長を務め、武田薬品200年余の歴史で初のM&A案件として、創薬ベンチャーである米シリックスの買収を手掛けました。米国ではその後、英タップ(米アボットとの合弁会社)、米ミレニアム・ファーマシューティカルズ、11年にスイスに移ってからは同国の製薬大手ナイコメッド社といった大規模な買収とPMI(買収後の経営統合を実行するプロセス)で主導的な役割を担いました。
武田薬品は当時、成長の機会を米国に求め、M&Aを通じて急速に事業を拡大するという明確な戦略がありました。それを中途採用の私に任せてくれた。非常に意気に感じました。
――製薬会社の財務に携わるのは武田薬品が初めて?
武田薬品に入社する前は日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)に長年勤務していて、日本のM&A部門で製薬会社を担当したことがありました。武田薬品、中外製薬ともにそのころから付き合いがあって、この縁が入社のきっかけになっています。
製薬業界は、製品の研究開発に要する期間が非常に長い。他の産業に比べて、より長期的な視点で経営戦略を持ち、遂行していくことが求められます。かつリスクを取りながらやるビジネスモデルですから、財務健全性が重要。自己資本に厚みがあり、キャッシュフローが創出される流れを維持できてるような財務基盤がないと、積極的な事業展開はできないんですよね。
――具体的にはどの財務指標を重要視し、評価基準としていますか。
次ページでは、谷口CFOが製薬企業において重視する財務指標、業界で時価総額首位を維持する中外製薬の財務戦略の要諦を明かす。