収入が減る一方で、9割以上が継続雇用を選択するというデータ※もある通り、ずっと同じ会社に勤め続けるなら、生活費などの支出はそれほど減るわけではない。
※厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」(令和6年)
しかも、晩婚・晩産ファミリーの場合、60歳以降も子どもが大学生というご家庭が少なくない。教育資金に加え、住宅ローンが残っていれば、年収に対するローン返済率は高くなり、家計を圧迫する。
結果として、65歳の年金受給までの期間、収入だけでは支出をまかないきれず、この時点から大きな貯蓄の取り崩しが始まってしまうようなら、「資産寿命」は確実に短くなる。
遺族年金は「夫の年金の3/4」は間違い!
予想以上に少ないので要注意
続いて(2)は、夫など配偶者に先立たれた後、「おひとりさま」になって以降に訪れる危機である。危機的状況に陥るのは、一方が亡くなると、世帯収入が激減するためだ。
特に女性の場合、現役時代に会社員や公務員だった夫が亡くなると、妻は、自分の老齢基礎年金に加えて、「遺族厚生年金」が受け取れる。
この額は、「夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)×3/4」。よく、夫の年金の3/4がもらえると勘違いする人が多いが、老齢基礎年金は遺族年金の対象外で、予想以上に少ない。
厚生労働省の分析調査によると、夫と死別した65歳以上の女性の平均年金月額は12.1万円。これまで、夫婦2人で年金20万円だった場合、年間約100万円も減少してしまう。
夫が亡くなる前に介護や長患いで、大きな費用負担が生じた場合は、貯蓄残高も相当に目減りしているはずだ。
最後の(3)は、まさに長寿によって生活が困窮する「長生きリスク」の問題である。
近年、30代、40代といった若い世代から老後資金の相談が増えてきたのだが、これも「長寿化」の影響が大きいと感じている。平均寿命の推移を見ると、1973(昭和48)年は男性70.70年、女性76.02年に対し、2023(令和5)年は男性81.09年、女性87.14年、この50年で男女とも約11年、寿命が延びた。
昭和のころは、60歳で定年になったとしても、10年ほどで亡くなっていた。それが今や、定年後も20~30年という長い時間を生きていかねばならない。
しかも、長引く低金利によって、銀行に預けていてもお金は全く増えない。公的年金が増える見込みは低い。退職金をはじめ企業の福利厚生も縮小傾向という状況では、若いうちから老後が不安になるのも無理はないだろう。
では、どのようにして「3つの危機」に備えていけばいいのだろうか。後編では、定年後に備えて最低限やっておきたい「2つのこと」を紹介する。