イノベーションは、これらの創造的な側面が存在しているからこそ目指すべきものとなるのです。ただ、破壊的な側面もあります。既存のモノゴトを陳腐化し、代替するからこそ、イノベーションは社会全体の生産性を向上させ、経済成長をもたらします。それは、自分のスキルが陳腐化させられる人も存在するということです。インパクトの大きいイノベーションが起こると、短期的には賃金が下がったり、失業が多くなったりします。
これは、イノベーションの破壊的な側面による負の影響です。これを放っておくと、経済的な格差が広がってしまう可能性があります。また、陳腐化させられてしまう側の人や組織の強い抵抗により、イノベーションが社会に浸透しない場合もあります。反対に、スキルや強みが陳腐化し、生産性が下がった企業を保護しすぎると、社会全体の収益水準を下げてしまいます。そのため、速やかな退出も重要です。このように創造的破壊にはトレードオフがあるのです。
この負の影響への対処が求められるのは、政府です。つまり、政府はイノベーションを促進していく政策をとりつつも、この負の影響にも対処しないといけないのです。だからこそ、政府の舵取りは難しいのです。
格差拡大の解消に
税の累進制は効くのか
再分配の方法で、注目を集めるものが2つあります。1つ目は、税の累進性です。再分配において一般的によく議論されるもので、格差が拡大しているのなら、所得や資産への課税の累進性の程度を上げようというものです。イノベーションによって資産価値が上昇した富裕層に対する課税を強化し、それを再分配するのです。考え方としてはシンプルです。
ヨーロッパやアメリカでは1940年代から80年代にかけて税の累進性が高く、その時にはまだトップ1%に入る富裕者層の持つ富が現在よりは抑えられていました。しかし80年代以降、税の累進性は小さくなっていきました。格差が拡大しはじめたのとちょうど同じタイミングです。この累進性の低下傾向は、所得税と相続税も基本的に同じです。
一方、これまで見てきたように、特にアメリカでは格差が広がりすぎて、絶望する人が増えています。だからこそ、再び税の累進性を高めることの重要性が指摘されるのです。