しかし、税の累進性を高めれば解消されるほど格差問題は単純ではありません。税の累進性は、基本的には歳入側の話です。税金を集めてくる歳入側でいくら累進性を高めたとしても、それが税金を使う歳出側で困窮している人たちに再分配されなければ意味がないのです。

富裕層にも貧困層にも
国民全員に一定額を配る

 再分配の方法で、注目を集める2つ目の点は、ユニバーサル・ベーシック・インカム(少し長いのでユニバーサル・インカムと言いましょう)と負の所得税です。これらは歳出側のポイントです。

 ユニバーサル・インカムは、国民全員に一定の金額を無条件で支給する制度のことを指します。年齢や収入、職業に関係なく、国や自治体が国民に直接金銭を支給するのです。この制度の目的は、生活の基盤を保障し、経済的な自由を確保することです。これにより、低所得者の生活保護が向上することが期待されています。

 一般的に再分配を条件つきにすると、有資格者かどうかを見極めるための手続きや審査に大きなコストがかかります。資産や所得はどれだけあるのか、仕事を探しているのか、子どもを学校に通わせているのか、健康診断を受けさせているのかなどをチェックしなければならないのです。この点でユニバーサル・インカムは特定の層をターゲットとしないので、手続きが簡便であるという魅力があります。

 しかし、ユニバーサル・インカムを導入している国はほぼありません。国民全員に一定の意味がある金額を配るのは、財政的な負担が大きすぎるのです。また、現金給付を受けると、人の労働意欲が低下してしまうのではという懸念も、裏づけるデータは今のところありませんが存在しています。

労働意欲低下を防ぐ
負の所得税

 歳出側方法として、負の所得税も注目を集めています。ユニバーサル・インカムと比べるとこちらの方が現実的で、いくつかの国では既に導入が進んでいます。

 負の所得税は、所得が一定の基準を下回る低所得者に対して金銭を支給(または税控除)する制度です。具体的には、所得が低いほど多くの補助金が支給され、所得が増えるにつれて補助金の額は減少していきます。この目的は、所得の低い人々の生活を支援し、所得格差を縮小することにあります。負の所得税は、労働意欲の低下を防ぐための仕組みとしても注目されています。