質のいい睡眠は必要です。が、睡眠にとらわれすぎるのもいけません。本当に豊かな日常生活を送ることを心掛けてください。

――具体的に何をしたら良いのですか。

 ある程度の刺激がある社会的な活動、運動、美味しい食事をとると、ヒトは自然と眠りにつきます。3000年前のギリシャでも、運動し、グラス1杯のワインを飲めば、熟睡して朝はすっきり目を覚ますことができると言われていました。

 要するに充実した生活を送ると、睡眠のことをわざわざ考えなくたって、質の良い睡眠がとれるのです。逆に言うと、全ての精神疾患が、睡眠の問題を抱えています。

 医師が、認知症疑いの人を診察する際には、睡眠がきちんととれているかを診ています。睡眠が十分でないとか、質の悪い睡眠の場合は、脳内の掃除ができていないのでアミロイドβが溜まりやすい。つまり、認知症になりやすくなります。

――私は職業柄、海外とのコミュニケーションが多くて夜中に起きているため、昼寝をします。昼寝は健康に良いことでしょうか?

 昼寝で重要なのは、「30分以上寝たらいけない」ことです。夜の睡眠に影響して、熟睡できなくなるからです。昼寝で重要なのは、リフレッシュすること。夜間にしっかり寝ることこそ、重要です。

 Sara Menickという、カリフォルニア大学アーバイン校の睡眠研究者がいて、昼寝とパフォーマンスの関係に焦点を当てています。彼女の著書、『Take a Nap! Change Your Life.』に、昼寝の効用について詳しく書いてありますよ。

――そもそも、あなたが脳のゴミ排出システムを発見したことで世界的に知られているわけですが、発見当時のことを改めて聞かせてください。

 あれは2012年のことでした。人間の身体にはリンパ管が張り巡らされていて、リンパ液が細胞から出る老廃物を洗い流しています。でも、脳の内部にはリンパ管は通っていません。だから脳内の老廃物や毒素がどのようにして排出されているか、解明されていませんでした。

 ジェフという若い科学者が私の研究室に来て、実際の脳を使って神経細胞やグリア細胞を見ていました。彼には独立したプロジェクトが必要だと判断し、手始めに1986年の論文を彼に渡して、「再現してくれないか」と伝えました。

 ある時、別の女性が間違って脳脊髄液にトレーサー(物質の動きや変化を追跡するために添加される物質)を注入してしまいました。すると、脳の組織全体に瞬く間に広がりました。それが、アミロイドβも排出することが分かったのです。こうして、脳脊髄液(頭蓋骨の中を満たしている液体)が細胞のゴミを洗い流していることを発見したのです。

>>『マイケル・ジャクソンの命も奪った「睡眠薬中毒」の怖い罠...ゾルピデム、メラトニン、スボレキサント何が違う?』も合わせてご覧ください。

脳に“ゴミ”を溜めて認知症を招く「恐るべき睡眠薬」とは?医療・製薬業界が激震マイケン・ネダーガード/コペンハーゲン大学で1983年に医学博士号(MD)、88年に理学博士号を取得。84年~87年コペンハーゲン大学で神経病理学/生理学のポスドクを修了し、その後、米コーネル大学医学部大学院で神経科学のポスドクを修了。