日本製鉄Photo by Shotaro Imaeda

今月、国内鉄鋼最大手の日本製鉄が、子会社の日鉄ステンレスの吸収合併を発表した。日鉄ステンレスは、かつての新日本製鐵、住友金属工業両社のステンレス部門が統合してできた会社だ。一度切り離された事業が再吸収されるに至ったのはなぜか。その裏にある日鉄の真意を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

好業績なら「ボーナスは親会社超え」?
山谷の激しい事業を日鉄があえて“再吸収”

 製鉄事業をさらに強化すべく、グループ会社の再編を進める日本製鉄が、新たな一手を繰り出した。完全子会社の日鉄ステンレスを来年4月1日に吸収合併すると発表したのだ。

 日鉄ステンレスは、新日本製鐵と住友金属工業の合併に先立ち、2003年に両社のステンレス部門が統合してできた会社(当時の社名は新日鐵住金ステンレス)だ。クロムやニッケルなどを含有するステンレスは、通常の鉄(普通鋼)より原料価格の変動に市況が左右されやすい。「好調な年はボーナスで“親会社超え”を狙えるが、原料市況次第では、その翌年に日鉄本体以上の急降下があり得る」(日鉄ステンレス中堅社員)という。業績の山谷が読みにくく、経営のかじ取りが容易ではないのだ。

 しかも、合併当時から中国メーカーの台頭が著しく、厳しい事業環境にさらされていた。

 統合から約20年がたった今も、競争が苛烈を極める状況は変わらない。中国勢は圧倒的なプレゼンスを確保しているが、国内需要の縮小に見舞われている。そんな中でも中国メーカーは過剰生産を続け、余ったステンレス鋼材が日本や東南アジアなど各地に安値で流れ込む。中国勢による海外での「市況破壊」の構図は、普通鋼と同様だ。

 では、先行き不透明に見えるステンレス事業を日鉄が“再吸収”するに至ったのはなぜか。

 この背景には、ステンレスにとどまらない日鉄の長期的なグループ戦略がある(日鉄のグローバル戦略については、特集『進撃の日本製鉄』の#2『日本製鉄の“USスチール2兆円買収”により日本勢が鉄鋼業界で復権?「グローバル1億トン戦略」の勝算』参照)。橋本英二会長兼CEOが社長だったときから掲げてきたビジョンを達成する上で、今回の再編は必須と言えるのだ。

 次ページでは、一度切り離されたステンレス事業を再吸収する日鉄の真意を明らかにする。