「認知障害のある母が200万円支払っていた…」日本郵政が手を染めた“ほぼ詐欺”な保険営業の実態Photo:PIXTA

2018年、生命保険のノルマに苦しんでいた郵便局員のAさんは、西日本新聞の情報提供窓口「あなたの特命取材班」のサイトにその実情を書き込んだ。その後、この問題に注目していた宮崎拓朗記者が深堀り取材を始めると、ノルマのために高齢者を喰い物にする局員の姿が見えてきたという――。本稿は、宮崎拓朗『ブラック郵便局』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

郵便局員が加入させたのは
「300万円を捨ててしまう保険」

 Aさんとのやりとりを始めてから5ヵ月、最初の記事を書き上げた。

「郵便局員違法営業68 件/保険高齢者と強引契約/内規違反も440件/15年度以降」(2019年3月18日付、西日本新聞朝刊1面)
全国の郵便局で2015年度以降、局員の保険業法違反に当たる営業行為が68件発覚し、監督官庁の金融庁に届け出ていたことが関係者への取材で分かった。内規に違反する不適正な営業も約440件に上ることが判明。保険の内容を十分理解していない高齢者に無理やり契約を結ばせるなど、悪質な事例が目立っている。

 表立った反応はなかったものの、この報道をきっかけに、取材は静かに進展することになる。記事は、西日本新聞の発行エリアである九州の読者向けの新聞紙面に掲載されただけでなく、インターネット上でも配信され、全国の郵便局関係者や、顧客から情報が寄せられるようになったのだ。

 電話で話を聞いた関西地方の女性は、まくし立てるように語り出した。

「私の母も、郵便局員から望まない生命保険を契約させられました。担当者に『解約したい』と申し出ても、あれこれ話をはぐらかされて、応じてくれません。悪質極まりないです」

 女性は2ヵ月前、福岡県で1人暮らしをしている78歳の母親が加入している保険の内容を知り、不信感を持つ。病気に備えた「特約」が付いてはいるものの、支払う保険料約800万円に対し、死亡保険金は500万円。「300万円を捨ててしまう保険だ」と思った。

 母親に尋ねると、「何度も『必要ない』と言ったけど、郵便局の人が帰ってくれないのでサインをした」と打ち明けたという。

 母親が契約したのは2年前。自宅に2人の局員がやって来た。母親にとって、郵便局はなじみが深く、知り合いの郵便局長もいる。警戒することなく2人を家に上げた。

 局員たちは、母親が既に加入していた保険について、「この契約では、お母さまに万が一のことがあったとき、娘さん(女性のこと)だけが相続することになり、息子さん(女性の弟)には遺せませんよ」と説明した。