日本郵政グループは今年4月、かんぽ生命保険の不適切販売の発覚後、なくしていた営業目標を3年ぶりに復活させ、本格的に保険の売り込みを再開した。しかし、営業目標の復活から半年を迎える現在も、保険契約の獲得がゼロの郵便局が少なからず存在するという。特集『JAと郵政 昭和巨大組織の病根』(全15回)の#3では、不正の未然防止のルールで自縄自縛に陥り、販売能力を失った郵便局の窮状に迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文、今枝翔太郎)
かんぽ不正の処分はトカゲのしっぽ切り
トップ保険営業も「病気療養」で逃げ切りの不平等
企業で不祥事が起きたとき、その事後対応を間違えると後々まで禍根が残り、事業に大きな影響を与える。その典型が、かんぽ生命保険による不適切販売の問題が発覚して以降の日本郵政グループである。
かんぽ生命の問題では、郵便局員が高い営業目標を課せられ、契約者のニーズや利益を無視した保険の売り込みを全国的に展開していた。
顧客に不利益を与えていた不適切な販売には、大まかに二つの手段がある。
一つ目が、既存契約を解約して新契約に移行させるが、新旧契約で保障内容が変わらないのに保険料が割高になる乗り換え契約。二つ目が、子や孫を被保険者とする保険に高齢者を加入させ、被保険者との面談や同意をせず契約してしまう無断借名契約だ。
本稿では深入りしないが、こうした保険の不適切販売は農協でも行われている。詳細は本特集の#12『農協の押し売りで99歳女性が24件の共済契約!被害者抗議にJA開き直りの保身術』を参照してほしい。
不適切販売が行われていた頃、郵便局は殺気立っていた。保険契約を獲得した社員が郵便局に戻ると、郵便局長から「なぜ200万円などという少額の契約を取ってくるんだ。なんで1000万円預かってこなかった!」と罵倒されるなど、プレッシャーをかけられることが珍しくなかったという。
それでも、日本郵政グループ社内で恩恵にあずかっている社員はいた。実際に、保険の営業で実績を上げた社員の月額報酬が100万円を超えるケースもあったという。
だが2019年にかんぽ生命の問題が明るみに出ると、全てが暗転していく。
次ページでは、日本郵政がかんぽ生命の問題で、不公平な懲罰を行い、社員から不信感を持たれたことが、営業再開後まで悪影響を与え続けている実情に迫る。