男性は民営化前から保険営業一筋で、毎年、平均的な営業ノルマの2倍近くの契約を取っていた。所属する日本郵便の地方支社管内では上位の成績で、何度も表彰されたことがあるという。
男性は「自分で言うのも変ですけど、バリバリにやっていた方だと思う。2、3年前までは、クリアな営業ができていました」と言った。
バイクで顧客宅を回り、身の上話を聞きながら、相手の将来設計に合った保険を提案する。顔なじみになった顧客から、育てた野菜をお裾分けしてもらうこともあった。
「郵便局の仕事は地味ですけど、地域の人の役に立てている実感があって、やりがいがありました」
壁に突き当たり始めたのは2016年ごろ。商品の改定により、保険料が値上げされたためだ。
郵便局が主に取り扱うのは、貯蓄型の生命保険。死亡時に保険金が出るだけでなく、10年の満期を終えると、貯まった満期保険金が戻ってくる仕組みになっている。かつての高金利の時代には、支払った保険料より多くの満期金をもらうことができたため、貯金のようなイメージで加入していた高齢者が多い。
しかし、低金利の時代に入り、満期金は支払った保険料を下回るようになった。それに加え、販売元のかんぽ生命保険は、民営化後も政府の関与が残っており、民業圧迫を避けるための規制がかかり、自由な商品開発ができない。他社と比べて取り扱う保険商品がどんどん見劣りしていく。新規の契約を取るのが難しくなっていった。
「乗り換え契約」
という禁じ手
それでも、全国トップクラスの渉外社員たちは、変わらず実績を挙げ続けている。男性は「どんな営業をしているのだろうか」と疑問を持ち、彼らの契約内容を調べてみた。ほとんどが「乗り換え契約」だった。既に加入している保険を解約し、新たな契約を結ぶ手続きだ。
乗り換えの場合、保障内容が良くなるというメリットがある反面、解約に伴う損失があったり、保険料が上がったりといったデメリットも多い。男性はそれまで、顧客に乗り換えを勧めたことはなかった。