これを裏付けるように、「高齢の父親が、家族が知らないうちに強引な契約をさせられた」と訴える男性が、郵便局側から契約書類を取り寄せたところ、徒歩圏内に家族が住んでいるにもかかわらず、「遠方に住んでいる」の欄にチェックが入れられていた。

不適切な「話法」を教える
勉強会まで存在

「話法」に関する証言もあった。

 関東地方の若手の渉外社員は、「インストラクター」の営業に同行し、「生前贈与話法」を目の当たりにした。

 インストラクターは、高齢の女性とその娘に「天国までお金を持って行ったら、娘さんが困りますよ」などと軽妙な語り口で勧誘し、「毎年100万円を娘さんの通帳に動かして、保険の形で預けてもらえば、相続税も贈与税もかかりませんよ」と話し、契約書にサインさせたという。

 一見、説得力のある話にも聞こえるが、相続税対策のためなら生前贈与すれば済み、保険に加入する必要はない。そもそも、相続税の課税対象にならない家庭もある。インストラクターはそんな説明は一切しなかったそうだ。

「マイナンバー話法」「介護施設話法」「凍結話法」――。勧誘の「テクニック」は次々に生み出され、それを学ぶための勉強会が各地で開催されているという。

 北海道の30代の男性が勤めていた郵便局の金融渉外部では、「今日のばあさんは良い人だったから、何とか言いくるめて契約を取ってきたわ」といった先輩社員たちの会話が日常的に飛び交っていた。

「相手はカネだと思え。同情はいらない」日本郵政グループ社員らが暴露する悪徳保険営業の手法『ブラック郵便局』(宮崎拓朗、新潮社)

 男性が顧客宅を訪れ、身の上話に耳を傾けたものの契約には至らなかった際には、「そんなのは営業とは言わない。くだらない話をせずに、さっさと切り上げて次に行け」と怒鳴られた。

「相手はカネだと思え。下手な同情はいらない」と言う上司もいた。

「お客さんをだましてまで仕事を続けるべきなんだろうか」

 男性はうつ病を患い、1年ほどで退職した。