「守る」から「伸ばす」へ~これまでは「過保護な親」だった
終身雇用や年功序列に象徴される従来の人事制度は、社員に安心感を与えてきた。平松さんはこれを「優しいつもりだったけど、過保護な親のような優しさだった」と表現する。
「日本企業で社員にキャリアを考えさせるのは、新入社員のときと、50歳でセカンドキャリアを考えるタイミングの2回が定番です。なぜその間キャリア研修をしないのか。それは、主体的にキャリアを考えさせると転職してしまうおそれがあるからです。つまり、目の前の仕事だけに集中させることで人材を抱え込もうという発想がベースにあるのです」
これが20年、30年と続いた結果、「生産性が低く、ジェンダーギャップが大きく、賃金もキャリア志向も低い。何かハッピーじゃない。これが本当の優しさでしょうか。ジョブがなくなったら終わりという世界は一見厳しいですが、常に挑戦の機会があり、チャンスをつかめるよう学び続けられる環境がある。これこそが、真の優しさなのではないでしょうか」
平松さんの在りたい人事の姿は、社員の成長を支える「伴走者」だ。
「富士通の社員は、テクノロジーの変化や高度な顧客ニーズに応える仕事、社会インフラを支えるシステム開発という責任ある仕事に、自ら志望して入社しています。社会貢献したい、挑戦したい、成長したいという強い思いがあるのです。エンゲージメントが低かったり、仕事が楽しくなさそうに見えるとしたら、それはカルチャーや人事施策が社員の情熱を抑え込んでしまった結果だと思っているんです。これからは挑戦したくなる機会をどんどん作っていきたい。社員の皆さんには思い切り挑戦してほしいです」
たとえ富士通を離れても、どこでも活躍できる力を自分の意思で身につけられる。それこそが富士通が目指す「人に優しい」人事の姿だ。
