彼の死因として、食中毒との説もありますが、どうも、それまでの彼の症状からは、胃がんで亡くなったとする説が有力です。胃がんは一般的に、死をもたらすまでの病期に至るには、10年ほどかかると思われます。
すると、彼は関ヶ原の戦いに勝利した頃に、発がんしたとも考えられます。天下統一の決意を持ってそれまで常に節制してきた彼にもその時一瞬の“気のゆるみ”が出て、がんが発生したのではないかと、医師としてわたしは考えてしまいます。そうであってもやはり、家康は老化負債を完済した人の1人に挙げたいです。
冒頭の遺訓(『東照宮御遺訓』)は、実は、神君家康様ならこう考えたであろうと想像した後世の創作との説もありますが、この遺訓を読んでひたすら耐えろと言われると、正直、多くの人は人生にワクワク感を持つことは難しくなってしまいます。
確かに、強靭な心身を維持して長寿を保ち、全国の戦国大名を傘下に置き、豊臣家を滅亡にまで追いやった家康の企画力、統率力、実行力には敬意を表したいと思いますが、健康維持だけに言及したものではないとはいえ、わたしは家康の遺訓にはいささか反対です。生きていく以上負債を背負っていくわたしたちにとって、重荷にならないうちに対応したいものです。
しかし、
及ばざるは過ぎたるよりまされり。
は耳を傾けるところがあります。
自分の毎日の生活を見つめる。決して人のふり見て我がふり直せ、という姿勢を取らない。それは聞こえはいいですが、他人任せな態度と同じです。そして、過ぎたること、すなわち毎日の生活でいつもの状態を飛び越える事象に目を向けることも重要です。“普通”であることが大切なのです。自分自身の“ルーティン”を知っておくことで、そのルーティンから外れていく、ブレていくことがないようにすべしというメッセージを、わたしは、老化負債を完済した家康から受け取りたいと思います。
自分のルーティンを知って
ブレないための「リズム」作り
ルーティンを守り、ブレずに同じ状態を保つことが長寿につながります。しかし、毎日全く同じことを続ける、ルーティンを守ることは至難の業です。日頃の仕事をのんべんだらりと同じペースで続けるのは楽そうに思えますが、飽きてきますし疲れてもきます。一向にはかどりません。