「高額療養費制度」を守るには?個人ができることとはPhoto:PIXTA

 高額療養費制度の見直しを巡る混乱は記憶に新しい。約1950億円の医療費削減を見込んだようだが、拙速に過ぎたと言わざるを得ない。世代を問わず生存権を脅かす事案だけに、しっかり関心を持ち続けたい。

 同時に一人ひとりが医療費の削減に寄与する方法も考えていこう。すぐに実践できるのは疾病予防だ。

 国立がん研究センターの調査によると、生活習慣や感染に起因する「がん」の経済的負担は約1兆0240億円(男性が約6738億円、女性は約3502億円)だった。つまり、生活習慣の是正や感染予防策を取ることで医療費削減効果が期待できるわけだ。

 リスク因子別では感染による負担が最も大きく約4788億円に上り、がん種別では、胃がんが約2100億円、子宮頸がんが約640億円と推計された。

 日本人の胃がんにはヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染が関与しており、陽性者の胃がんリスクは陰性者のおよそ5倍、隠れ陽性者を合わせると10倍にも上昇する。

 ピロリ菌の除菌は、抗菌薬2種類と胃酸分泌抑制剤1剤を用いる3剤併用療法がスタンダード。胃炎を繰り返したり、内視鏡検査でピロリ菌感染が指摘された場合は除菌治療を検討しよう。

 子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因で、持続感染者の0.1~0.15%が子宮頸がんを発症する。毎年3000人近くが亡くなり、運よく早期治療がかなっても早産・流産の可能性が高くなるなど人生に大きな影を落とす。

 一番効果的な予防手段はHPVワクチンの接種だが、接種時期を逃した方は医師と相談しながら定期的に細胞診検査やHPV検診を受けよう。

 感染に次いで負担が大きいリスクは能動喫煙だ。負担額は約4340億円で、がん種別では肺がんが最も多く約1386億円だった。

 肺がんは罹患数、死亡数ともトップ3に入り、男性の肺がん死の6割、女性の2割が能動喫煙に起因するといわれる。喫煙以外のリスクは大気汚染など個人で対応し切れないだけに、禁煙くらいは実行したい。

 健康と家計、そして現役世代のセーフティネットでもある高額療養費制度を守るために疾病予防を考えよう。

(医学ライター・井手ゆきえ)