なぜ、朝田家は急に
生活に困っているのか?
まんじゅう屋の内職も続かない。たちまちお米が心もとなくなり、朝田家は途方にくれる。
くら(浅田美代子)が近隣のかぼちゃ畑の話をすると、羽多子(江口のりこ)は「盗んだらいけない」と釘を刺す。さらりと描いているが、羽多子は真面目なしっかり者で、くらは少し倫理観が低いようだ(冗談だとは思うが)。
のぶは節約のため学校にお弁当を持たずに行き、嵩(木村優来)に分けてもらう。すでに作ってもらっているお弁当を持っていかないのはむしろもったいない気がする。これからは要らないという意思表示と解釈しておこう。
ここで疑問。第6回でも筆者は思ったのだが、そんなに急に貧しくなるものだろうか。お父さん・結太郎は身なりもよく、一流商社マンふうだった。あちこち出張して、活躍しているようにも見えたが……。
なぜ、朝田家は急に困っているのか。
のぶのモデルである暢の父親が勤めていた総合商社・鈴木商会は昭和2年、昭和金融恐慌のあおりで倒産している。暢については詳しい記録があまり残っていないが、そのときすでに暢の父は亡くなっていたようで。でもドラマでは昭和2年に亡くなったことにしたのはなぜだろう。それは――。
金融恐慌で日本人が弱っている状況の暗喩ではないだろうか。ちょうど、現実世界では株価乱高下で右往左往しているところで、それでなくても物価高で悩ましいところ。朝田家の節約気分にも共感できる。
『あんぱん』はリアルな社会状況をつぶさに描くドラマではなく、子どもの絵本や童話のように、誰もがわかるように悲しい出来事、苦しい状況を描いているのではないかと思う。
例えば、優れた童話を読んだとき、細かく、正しく当時の状況が描いていないとは誰も思わない。