大衆薬大手の大正製薬ホールディングスは、創業家主導でMBO(経営陣による買収)を実施した。そのTOB(株式公開買付)価格には5割超の買収プレミアムが付いたにもかかわらず、投資家から「安すぎる」と批判が集まった。背景には、同社の株価が低迷していたことがある。同じく大衆薬大手のロート製薬の決算書と比較しながら、その原因を見ていこう。(中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授 矢部謙介)
日本企業では過去最大となった大正製薬HDのMBO
ファンドから批判された理由とは?
2024年1月16日、大正製薬ホールディングス(以下、大正製薬HD)は、オーナー家の上原茂副社長が代表を務めるSPC(特別目的会社)、大手門によるTOB(株式公開買付)が成立したと発表した。
これにより、大手門は大正製薬HDの約73%の議決権を取得することとなった。最終的な買付総額は約7077億円になると見込まれている。
23年には、大正製薬HDをはじめ、ベネッセホールディングスやシダックスなど有名企業によるMBO(経営陣による買収)の発表が相次いだが、大正製薬HDの事例は、日本企業では過去最大のMBOである。
このMBOを巡っては、複数の投資ファンドから批判の声が相次いだ。1株に対して8620円に設定されたTOB価格が安すぎる、というのがその理由だ。
その背景には、大正製薬HDのPBR(=株式時価総額÷純資産、株価純資産倍率とも呼ばれる)が、長期間にわたって1倍を下回る低水準で推移していたことがある。低いTOB価格によるMBO、そしてそれに伴う上場廃止は、少数株主の利益を損なうとしてファンドからの批判が集まったのだ。
今回は、大正製薬HDの決算書と、同じ大衆薬大手であるロート製薬の決算書を比較しながら、なぜ大正製薬HDの株価が低迷し、MBOを行うに至ったのか、一方でなぜロート製薬が大きく業績を伸ばすことに成功したのか、それらの理由を探っていく。