「漢服姿で歩いて日本人に見せつけてやった」
日本を馬鹿にするような動画も

 スマホや海外旅行が普及した2010年代以降は、海外旅行先で漢服を着て歩く姿をSNSにアップする若者も増えた。だが2015年9月にタイ北部の寺院で、漢服姿で「映え」写真を撮っていた女性に寺院側が苦言を呈するなど、所構わぬ着用が現地と摩擦を生む例もある。

 中国と西側諸国との関係が緊張した2020年代に入ってからは、「東京を漢服姿で歩いて日本人に見せつけてやった」といった国威発揚的な字幕を入れた画像やショート動画をアップすることで、流量(アクセス数)を狙う低俗な行為も増加しはじめた。

 日本人や欧米人からすると、たとえ自国で中国人旅行者が漢服を着て歩いていても「中国の服」としか思わないが、一部の中国人にとっては別の意味合いを持つ。

 漢服は本質的にナショナリスティックな文脈から現代に復活した文化だけに、ネットの愛国ポピュリズムとも相性がいい(もっとも、そうした意味を意識せず「お出かけ服」「映える服」として無邪気に漢服を着る若者のほうが多数派だが)。

理由を知ってゾッとする…中国人旅行者が日本で「漢服」を着て歩いたワケ同書より転載

 いっぽうで当局は、漢服ブームそれ自体は歓迎する構えだ。ただ、2018年に人気動画サイトの「ビ〈ビは口偏に畢〉哩ビ〈ビは口偏に畢〉哩」と共産党青年団中央が共同で打ち出した漢服キャンペーンが「中国華服日」だったように、中国人全体の伝統を象徴する服だとして「華服」と言い換える動きもある。

 他の少数民族を無視することに、共青団の内部で多少の懸念を抱いた人もいたのかもしれない。

 ただ、このキャンペーンのなかでも実際に強調されたのは漢服だ。華服=漢服だとすれば、むしろ漢族こそが中国(中華)の代表であるとする考えを、結果的により強めてしまう言い換えがなされたと考えることもできる。