「人種・民族に関する問題は根深い…」。コロナ禍で起こった人種差別反対デモを見てそう感じた人が多かっただろう。差別や戦争、政治、経済など、実は世界で起こっている問題の“根っこ”には民族問題があることが多い。芸術や文化にも“民族”を扱ったものは非常に多く、もはやビジネスパーソンの必須教養と言ってもいいだろう。本連載では、世界96カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』(ダイヤモンド社)から、多様性・SDGsの時代の世界基準の教養をお伝えしていく。
中国は漢民族と非漢民族で構成される「一強多弱国」
アジアの区分はさまざまで、ヨーロッパではトルコ以東はすべてアジアと考えている人もいます。日本の外務省は東アジア、東南アジア、パキスタンまでの南アジアをアジアとし、アラブやイラン、トルコはアジアに含めていません。
日本を含む東アジアのなかで、歴史的に絶大な影響力を持つのが中国です。多民族国家でありながら、一つの民族がとてつもなく強い、これが中国の民族事情といっていいでしょう。
960万平方キロメートルという巨大な国土に住む人口の約92%を占めるのは漢民族で、その残りが少数民族ですから、一強多弱の国です。
少数民族のなかで、人口が多いのは、チワン族、満州族、回族などです。チワン族は、南部の広西チワン族自治区や雲南省などに多数居住しており、民族の言葉チワン語も残っています。
満州族は、満州と呼ばれた東北部中心に居住していますが、満州語を話す人は減り、漢民族との同化が進んでいます。
回族は、外見や言語は漢民族と同じですが、宗教がイスラム教徒の人々です。イスラム教のことをかつて回教といいましたが、この回族からきています(イスラム教徒への配慮から現在では回教という表現は使いません)。
しかし、中国の少数民族を考える際に忘れてはいけないのは、ウイグル人、チベット人との軋轢です。いいえ、軋轢という言葉では到底言い表せない、非人道的な弾圧であり、深刻な国際問題となっています。そこで中国の民族について知るために、二つのポイントから見ていきましょう。
1.なぜ、漢民族が一強となったのか?
2.なぜ、数ある少数民族のなかで、ウイグル人とチベット人が迫害されているのか?
この2点を押さえておくと、私たちが歴史的に長らく影響を受けてきた、そして今後も経済的にも地理的にも大きく影響を受けるであろう中国という国が、民族という視点から見えてきます。