これまで日本政府は「コメ農家を守れ」と莫大な税金を投入して減反政策を続けてきた。コメをつくりすぎると価格がだぶつく。そこでエリート官僚たちの需給予測に基づいてコメの生産を調整し、価格安定化を図ったのだ。コメを大量生産する農家は「国賊」と罵られ、田んぼはどんどん売り飛ばされた。
減反政策は2018年に廃止されたと思っている人も多いが、実はそれ以降も、農水省は主食用米の全国生産量の「目安」を示しており、コメから転作する農家に補助金まで出して、主食用米の生産量を絞ってきた。
では、そんな「減反政策」を50年以上続けて日本のコメ農家はどうなったかというと、補助金なしで1人で立つこともできぬほど衰弱した。会社員をやりながらコメをつくる「兼業コメ農家」が増加した結果、日本産のコメの国際競争力は地に落ちた。世界では牛肉や小麦など自国の主要農産物を戦略的な輸出物資とするのが常だが、日本のコメ輸出量は約4万5000トン(2024年)。タイの2024年のコメ輸出量は約995万トンだ。
なぜこんなに差がついたのか。外国人観光客が海鮮丼や寿司を爆食いしているように、日本産のコメがタイ産のコメに比べて不味いなんてわけではなく、減反政策がコメ農家の「世界で勝負する気力」を奪ったのだ。
大規模農業や輸出に挑戦するコメ農家を冷遇し、コメづくりを控えるコメ農家に補助金をばら撒いた。つまり、多額の税金を費やして「頑張らないほうが得をする」という方向に日本のコメ農家を誘導した。よく「コメ農家は時給10円」と言われるが、そういう状態を招いたのは、コメ農家を補助金漬けにしてしまったからなのだ。
さて、そんな「減反政策の失敗」を農水省は立場的に絶対に認めることができない。そこでこの窮地を脱するため、「備蓄米を放出すれば解決です」と言い出したわけだが、大臣が謝罪したように酷い有様だ。
農水省によると、1回目の放出分14万トンのうち先月末までに小売店に届いたのはわずか426トンというように「焼け石に水」なのだ。