3列目シートがあるSUVで“異種格闘技戦”

柴:そうですか。日産さん、ついにやるんですね。でもなかなか難しいと思いますよ。だから我々はあえてその土俵には上がらずに、「異種格闘技戦」の戦法を取ることにしたんです。

F:なるほど。3列目シートを持つSUVは異種格闘技戦。打撃あり、寝技あり、関節ありの総合ルールで(笑)。

柴:はい。そしてその手応えはマツダのみんながしっかり感じていると思っています。「家族のために良いクルマ」という視点で物事を考えた時に、果たしてスライドドアは絶対に必要なのか。乗り降りがしやすいのは家族に取って間違いなく大事だし、車内を広く使える事も非常に大事です。それじゃ安全性はどうなのかとか。走りは、乗り心地はどうなのかと。そんな視点もあると思うんです。

F:ミニバンは構造上、側突(側面衝突)に弱い。ワンボックス形状で開口部も大きいから、SUVと比べればねじれ剛性も弱い。当然、走りも乗り心地もSUVには劣る。良い悪いではなく、物理的な特性でそうなりますよね。

柴:そういう話になるでしょう。その部分に目をつむってまで買ってほしいクルマなのかと。

F:とはいえ、スライドドアは魅力です。大変な商品力がある。CX-80にスライドドアを付けることはできないのですか?SUVとミニバンのいいとこ取りということで(笑)。

柴:CX-80にスライドドアですか?いや、今から付けるのは非常に難しい。骨格から大改造しないと無理ですね。

スライドドアを付けようという考えはなかった?

F:商品企画の段階で、スライドドアが候補に上がったことはないですか?

柴:ありません。一度も出ませんでした。

F:それはなぜですか?売れそうじゃないですか。

柴:失うものが多すぎるからです。さっきフェルさんが言ったように開口部が大きいので剛性が下がる。ドアを電動で持たせるためのフレームが必要になるから、骨格ごと重くなる。かなり重くなります。当然値段も上がる。

F:重くなる。高くなる。弱くなる、か。三重苦ですね。

柴:ラージ車群は、4車型をいかに効率よく造るかが一つの課題でした。CXの60、70、80、90を造るにあたって、全体の投資を抑えながら、4車型を使ってアメリカ中心のカバーと日本とヨーロッパ中心の市場のカバレッジをできるだけ広げて行きたいという思いで造っています。その中で3列車のためだけにスライドドア分の投資をするというのは非常に難しいですよね。