BEVとしての能力や快適性では、今でも十分ライバルと戦える実力を持っていた。一方で、どうしても見劣りするのがテレマティクスやボイスコマンドだ。

 ボイスコマンドは音声認識が不正確でほとんど使い物にならず、AIによる文脈判断が可能なBYDドルフィンや、ボルボ「EX30」との差が歴然としていた。アリアはメカニカルスイッチを大幅に減らした先進的なインテリアが特徴なのだから、洗練性を上げることは急務である。

最大のミスは受注再開時に
大幅な値上げをしたこと

 こうした弱点はあるものの、戦闘力はなお十分に有しているアリアが、なぜ存在感を失ってしまったのか。最大のミスは、24年の受注再開時に大幅な値上げをしたことだろう。特に今回乗ったB6は、539万円から659万円へと120万円も値上げした。

 この価格設定は、BYD「シーライオン7 AWD」やヒョンデ「アイオニック5 ラウンジAWD」といったアジア勢のハイパフォーマンス・クロスオーバーばかりか、アリアより1割以上容量の大きいバッテリーパックを積むフォルクスワーゲンID.4をも上回る水準である。

 e-4ORCEを積む上位グレードになると、ラージサイズ・クロスオーバーのアウディ「Q6 e-tron」や同「quattro」との正面対決を余儀なくされる価格帯だ。クラスが2階級も違うプレミアムセグメントを相手に、ガチンコ勝負になるような価格設定では、ユーザー離れは自明の理。下手すると、可愛さ余って憎さ百倍の感情を生みかねない。

 原材料高などの事情はあっただろうが、価格設定とはライバルあってのもの。値上げしても大丈夫だと判断した幹部の責任は、重大と言わざるを得ない。

 そもそも、アリアで稼働させるはずだった生産システム「インテリジェントファクトリー」が上手く稼働せず、生産遅延は分かっていたはずだ。にもかかわらず、電動部分やテレマティクスなどのアップデートを行わなかったのも、アリアの存在感をみすみす失わせしめた要因だろう。