内閣人事局の人材プールだけでは限界も
“出戻り”や民間人材に期待

 近年、霞が関の人材確保として、新卒採用の給与水準に注目が集まっているが、全体の給与財源の中で配分をどうするかという問題がある。国家公務員全体の平等性を重視した精緻な俸給表の中で、新卒採用者の給与水準を相対的に少しだけ大きく上昇させることは、結局、その後の昇給幅が犠牲となることを意味する。

 このため、全体の給与財源を確保するべく、給与の比較対象企業の規模について見直しが検討されている。民間企業の賃上げは進んでいるが、財政状況が悪化する中で国家公務員の給与総額、水準がどれほど変化するか、注目される。しかし、本来、「官民比較によって決まるのは全体の総額であり、それを公務員間でどう配分するかは人事院の政策判断となる」(嶋田博子『職業としての官僚』22ペ―ジ)。ここには相当の工夫の余地があるのではないかと思われる。

 また、飯尾潤・政策研究大学院大学教授による官僚像の過去との比較分析(「中央公論」2025年3月号)は示唆に富む。高度成長期の通商産業省(現在の経済産業省)は、それに見合った仕事があったこともあり、若手に自由に活動させる雰囲気があり、20代後半から30代の係長といった官僚が活躍できた。その後、国際環境、政治主導、官邸主導などがあり、業務の在り方は大きく変化しているが、意味を見いだせない業務には若手官僚を従事させないことなどの工夫で、若手の積極的な創意が活用されているという。

 省庁の業務の多くは法令などで決まっており、時代変化に合わせて改善しながら、続けていくことが重要なのは当然であり、また、省庁により求められている役割はかなり異なる。しかし、国会との関係もある中、省庁の局長が責任を持って業務改革に取り組み、人材配置の見直しなどを実行に移す努力は注目される。社会的やりがいや、スタートアップ企業に見られる個人の裁量性、迅速な意思決定を求めて、公務員を志望しない、あるいは短期間で去る者も多い今日、優秀な人材を確保、維持するため、業務改革の本格化が必要であろう。

 優秀な人材を確保し、内部育成することは官僚集団を持続させるために必要だが、時代変化に対応するには、それだけでは十分でない。例えば、内閣官房副長官補(安全保障、危機管理担当)、国家安全保障局次長を経験した元防衛官僚の髙見澤將林氏は、官僚人事、特に内閣官房幹部となる者に関し、内閣人事局で登録しているプール(指定職および候補)の中に本当に適材がいるのか、疑問を呈している。行政のくみ取るべきニーズが変わっており、基本的には霞が関という特定のソースの中にいる人材しか選べないことについて懸念を述べているのだ(共著『官邸官僚が本音で語る権力の使い方』52ページ)。

 このため、近年、いろいろな取り組みも増えている。ただし、民間経験を有する者の総合職採用も増えているが、特定分野での活躍を念頭に置いている例も少なくなく、むしろ最近は、いったん退職した職員の雇い戻しが増加しており、期待されている。

 処遇改善は重要だが、抜本的な給与制度変更には時間がかかると思われる。業務改革による若手職員の活躍、退職した職員の雇い戻しなどの努力が一層必要である。その上で、新しい働き方に適合した令和時代の人事制度が構築されるべきだと考える。

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