では、肝心な米国市場への方針はどうか。デンソーは26年3月期について、営業利益は前期比30.1%増の6750億円、純利益は同22.9%増の5150億円となる見通しを発表した。が、これはトランプ関税リスクを織り込まなかった。業績は下振れする可能性があるものの予想は困難で、税率などが明確になったら都度、四半期決算で盛り込むという。

 一方のアイシンは営業利益段階で200億円程度を減益要因として見込んだ。ただし、米国の市場縮小までは予想できていないという。あくまで仮置きの意味合いが強い。

 また、豊田合成は(顧客の)米国での生産台数や対米輸出台数がそれぞれ5%減少する前提を26年3月期予想に見込んだという。一方で豊田自動織機は関税影響を算定しておらず、業績予想には見込んでいない。

 このように、同じトヨタグループ内であっても意外とバラバラで、26年3月期予想への見解がズレている状況だ。

トランプ関税への対応
「Make Our Supply Chain Flexible Again」

 話は変わるようだが、このところサプライチェーン上の人権問題について、「どこまで調べればいいのか」が話題になる。直接取引をしている企業は把握できても、孫請け企業まで把握できているケースは少ない。しかし孫請け企業で問題が生じると、発注元は責任を追求される。だから、どこまでやればいいのか、というわけだ。

 弁護士らに相談しても、明快な答えは出ない。結局は、「できる限りの対応をしたと言えるか」に尽きるという。事後にそれを説明できれば、完璧じゃなくても、その企業を責め立てる人は少なくなる。

 トランプ関税への対応も似ていて、完全無視はもちろんダメで、まずは真摯に対応するしかない。冒頭に善管注意義務違反の話をしたが、特に上場企業は株主の資金を預かる以上、できる限りの対応をしたかが問われるのだろう。

 最近はサプライチェーン関係者が毎朝目覚めて最初に確認するのが、株価でも為替でもなく、トランプ氏のSNSの最新投稿になっているという。事業リスクに地政学を踏まえることが重要になって久しいが、「Make America Great Again」ならぬ「Make Our Supply Chain Flexible Again」が新たなスローガンになりつつあるのかもしれない。