スキャンダルが
芸能人の市場価値を高める?

――結婚や恋愛をうまく自分自身の成長物語に組み込み、ブランド再構築につなげられた人はいますか。

 松田聖子さんですね。彼女は、自身の恋愛やスキャンダルをむしろ、自分のアイデンティティーとして価値を高めていく要素とすることに成功しました。私も昨年、彼女のコンサートに行きましたが、客席は満員。その多くが、女性だった印象です。彼女が苦楽を乗り越えた人生の物語に、ファンの女性たちも共感しているということなんだと思います。

 そして、松田さんの成功例を現代的に刷新したのが、指原莉乃さんでしょうね。指原さんはスキャンダル報道が出て、AKB48から若手グループのHKT48に移籍しましたが、彼女はそこから飛躍しました。スキャンダルという損失以上に、市場価値を高めたのです。

 指原さんの例からもわかるように、短期的にはスキャンダルは芸能人の市場価値を毀損するかもしれませんが、長期的にはマイナスばかりとも限りません。むしろ、プラスに働くことだってある。経済学的には、費用と便益を比べる必要があるのです。

――費用と便益ですか。

 経済学用語で、本来あるはずだった収入の機会を断念することによってもたらされる損失を「機会費用」といいます。スキャンダルによって予定されていた仕事がキャンセルされたり、CM出演が見送られたりと、これについてはイメージしやすいと思います。一方で、一見マイナスに思えるスキャンダルであったとしても、付加価値をもたらすことだってありうるのです。

 アメリカの労働経済学者ジョージ・ボージャスは、お騒がせセレブとして日本でも有名なパリス・ヒルトンが2007年に交通違反で逮捕された際、この一件によってパリス・ヒルトンの市場価値がどう傷つくかを算出しました。世間的には、「罪を犯したのだから、ダメージがあるのは当然」ということになるのですが、ボージャスの結論は、「この一件によってパリス・ヒルトンの市場価値は上がった」というものでした。