エネルギー動乱東京科学大学総合研究院・ゼロカーボンエネルギー研究所 近藤正聡准教授 Photo by Tohru Sasaki

2050年のカーボンニュートラルの実現、そしてホルムズ海峡危機というエネルギー安保の荒波を受け、原子力発電が再び世界の中核に躍り出ようとしている。しかし、この巨大なエネルギーシフトの裏側で、人類は「核のごみ(高レベル放射性廃棄物)」という未解決の課題を抱えたままだ。地層深くに埋めたとしても、天然のウラン並みの放射能レベルにに下がるまでに数万年という時間を要する負の遺産。この絶望的な年月を「300年」へと短縮し、さらにはエネルギーへと変える革新的な技術が今、実用化に向けて動きだしている。鍵を握るのは、核のごみを無害化しながら発電する「加速器駆動型未臨界炉(ADS)」だ。長年その実現を阻んできたのは、装置の心臓部を流れる「液体金属」による激しい腐食だった。この停滞に終止符を打ったのが、東京科学大学の近藤正聡准教授が発見した「自己修復する合金」である。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、大学発のスタートアップ「Lead accel」を設立し、原子力の出口戦略を根底から塗り替えようとする近藤氏に直撃インタビューした。(聞き手/エネルギージャーナリスト 宗 敦司、ダイヤモンド編集部 金山隆一)

毒性が消えるまでに数万年かかる核のごみ
「300年」に短縮する技術「ADS」とは何か

――放射性廃棄物の最終処分場の建設に向けて、東京都小笠原村の渋谷正昭村長が南鳥島での文献調査の受け入れを表明しましたが、処分場の選定だけで20年以上かかるそうですね。

 日本でも複数地点で文献調査が進んでいますが、途中で難航する場合もあるため、急ぐ必要はないと思います。ただ、運用が開始されたとしても、管理期間が数十万年に及ぶ場合があります。この期間を数百年にまで短縮できる「核変換」を文部科学省も有望技術として掲げていますが、この核変換とともに発電も行えるシステムが「加速器駆動未臨界炉(ADS)」です。

――ADSについて、分かりやすく教えてください。

 原子力発電後のごみには、放射能の寿命が特に長く、毒性の強い「マイナーアクチノイド(MA)』と呼ばれるネプツニウム、アメリシウム、キュリウムの「3兄弟」が含まれています。これらを減らすことで、数万~数十万年という気の遠くなるような管理期間を、300年程度まで一気に短縮し、処理しやすいものに変えるのがADSです。

 具体的な仕組みとしては、まず鉛やビスマスといった「液体金属」に、加速器を使って陽子を撃ち込みます。すると「核破砕」という原子がバラバラに砕ける反応が起き、大量の中性子が飛び出します。この中性子をごみ(MA)から作った燃料にぶつけることで、毒性の弱い別の核種へ変換してしまうのです。

 ADSは「未臨界(みりんかい)」という、自ら燃え続けない状態で運転するため、加速器のスイッチを切れば即座に炉も止まり、暴走する心配がありません。安全性を確保しながら、ごみを無害化し、さらにその熱で電気も生み出す。いわば「核のごみ発電』なのです。

――これまでADSがあまり注目されてこなかった理由はどこにあるのでしょうか。

「核のごみ」を資源に変える夢の装置、ADS。しかし、その実現には「装置そのものがドロドロに溶けてしまう」という物理法則との戦いがあった。30年近く世界の研究者がさじを投げたこの難題を、近藤准教授はどう突破したのか。次ページでは、世界を驚かせた「自己修復する合金」の正体と、中国が猛追する開発レースの最前線、そして社会実装に向けた驚くべきロードマップに迫る。