Photo:Diamond,アクセンチュア提供
脱炭素の推進、化石燃料への再評価、AIの台頭――。近年のエネルギー業界は、地政学リスクの高まりやテクノロジーの急速な進展により、目指すべきゴールが刻一刻と変化している。エネルギーを巡る未来の世界はどのように変化するのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、国際大学学長の橘川武郎氏とアクセンチュア素材・エネルギー本部マネジング・ディレクターの巽直樹氏が対談。激動する世界のエネルギー事情を徹底分析してもらった。(構成/ダイヤモンド編集部 鈴木文也)
「岐路に立つエネルギー業界!AI台頭で迎える新局面について業界を知り尽くす2人が徹底討論」(名刺交換会付き)では、未来のエネルギー業界に迫る特別講演を実施します。
環境か、安定供給か
揺らぐ「S+3E」の優先順位
巽直樹氏(以下、巽):日本のエネルギー政策は「S+3E」、すなわち「safety(安全性)を大前提に「Energy Security(安定供給)」、「Economic Efficiency(経済効率性)」、「Environment(環境適合)」の3つを追求しています。
2020年に菅義偉元首相が2050年カーボンニュートラルを宣言したのち、このうち環境適合が優先される状況になりました。
しかし、その後に新型コロナウイルス感染症のまん延やロシアによるウクライナ侵攻が発生しました。コロナ禍下でグローバル・サプライチェーンの混乱による深刻な素材・部品不足が発生したことに加え、ウクライナ侵攻以前から、欧州では風力発電の低調からガス価格が急騰したことでインフレ圧力が強まり、さらに侵攻後はエネルギー供給ショックも発生しました。こうしたことから、世界的に「環境問題以外の課題にももっと対応するべきだ」という機運が高まっていました。
何が言いたいかといえば、S+3Eの等式において、緊急時には安定供給を最優先に考えなければならないということです。米国ではデータセンター(DC)による電力の高需要から、すでに石炭火力発電の稼働延長などを決定しています。日本はこの5年間、こうした議論をきちんとしておらず、そのツケが回ってきたような印象を受けています。
橘川武郎氏(以下、橘川):巽さんが言われることは非常によく分かります。ただ、私は少し違う見方をしています。新型コロナやウクライナ問題、ホルムズ海峡の封鎖にしても、エネルギーの観点から言えば、「エネルギー自給率を上げなければいけない」という点に集約されます。そのためには、省エネや再生エネルギー、原子力発電をどう進めるかが本質的な問題点だと考えています。
日本の場合、電力自由化によって料金が下がるという考えは間違いだと思っています。日本のエネルギー料金を決めるのは、電源構成の7割を依存している化石燃料です。つまり、化石燃料に左右されない構造を作ることがポイントです。
エネルギー自給率を上げるために、省エネはさておき、再エネと原子力は共に環境適合に当てはまるものであり、注力する必要があります。その意味で、S+3E という考え方は基本的に維持されているのではないでしょうか。
第7次エネルギー基本計画の策定やホルムズ海峡封鎖など地政学リスクの高まりを受け、日本のエネルギー政策は大きな転換点を迎えている。次ページでは、カーボンニュートラルの真の実現可能性や「令和のオイルショック」への備え、そしてAIの台頭による電力需要の爆発的増加にどう立ち向かうべきか、両氏にさらに深く切り込んでもらった。








