環境を破壊する“悪者”として徹底的に石炭火力発電をつぶしてきた欧州は、次のターゲットを決める新たなルールを策定中だ。狙われるのはトヨタ自動車と東京ガス。その背後には中国の影もちらついている。特集『SDGsの裏側』(全6回)の#5では、欧州と中国の“悪だくみ”を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
「低炭素」を掲げる東京ガスが
「脱炭素」に変節した裏事情
都市ガス業界の頂点に立つ東京ガスの内田高史社長が発した言葉は、意外にも「脱炭素」だった。
2019年11月27日、同社は都内で開いた中期経営ビジョンに関する会見で、二酸化炭素(CO2)排出量を「ネット・ゼロ」にする方針を打ち出した。再生可能エネルギーやCO2を回収する技術などを開発し、今世紀後半のできるだけ早い時期までにこれを実現すると宣言したのである。
同社はこれまで「脱炭素は現実的ではなく、低炭素社会を目指す」と公言していた。なぜ変節したのか。内田社長は「石炭に比べてCO2排出量が少ない天然ガスでも、同じ化石燃料じゃないかと批判する声は世界で大きくなっている」と説明した。
気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」が15年に採択されて以降、地球を破壊する“悪者”として徹底的に狙われたのは、石炭火力発電だった。
「SDGs(持続可能な開発目標)」を達成するためのドライバーとして環境、社会、企業統治の三つの観点を重視するESG投資では、欧州などの機関投資家が石炭火力発電所を保有する会社への投資を引き揚げたり、プロジェクトへの融資をしなかったりする「ダイベストメント」を行って圧力をかけた。
石炭火力発電に比べて「地球に優しい」天然ガスを取り扱う東京ガスにとって、石炭火力発電への超逆風はひとごとといえた。
しかし、風はより大きく、範囲を広げようとしている。「気候変動対策」として欧州が繰り出すある「新ルール」によって、新ルールを守れない企業は、まるで“落第者”扱い。「環境に配慮しない企業」と烙印を押される可能性があるのだ。
その新ルールとは何か。