書影『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)仁科充乃『コンビニオーナーぎりぎり日記』(三五館シンシャ)

 すがるような声にせっつかれて、葬儀の席を外し、夫と2人で手分けして、今すぐ入れる助っ人探しが始まった。

 15 分ほどして、夫が「1人見つかった !」と大きな声を出した。「日下さんが今すぐ店に向かってくれるって !」

 ホッと一息ついた瞬間、ポケットのケータイが鳴る。店の番号だ。

「すみません。ちょうど今、日比野君が店に来ましたので、もう大丈夫です」

「……」

 結局、日比野君は予定より25 分遅れでやってきた。

 今、大急ぎで店に向かってくれている日下さんにも時給を払わないといけないだろう。静かな火葬場の片隅、私と夫は顔を見合わせるのだった。

発注
 午前10時までに発注業務を終え、本部へ送信しないと、翌日おにぎりも弁当も何も届かないこととなる。1秒でもすぎればアウトなので、9時半から10時になるまでのあいだ、発注係の夫は神経を尖らせている。この時間はうかつに話しかけられない。
見切り発車
 若いころ、パチンコ屋に通いつめていた夫は「コンビニ経営は毎日がギャンブルだ」と悟った。それ以来、「もうこれ以上の賭けごとはしたくない」と言い、一切のギャンブルをやめてしまった。
何度も店から電話
 ほかにも「チキンが温まっていないとお客さまが激怒しています」なんて電話が入るのは日常茶飯事で、もう慣れてしまった。仕事から完全に解放されるのは、10 年ごとの契約更新によるリニューアル工事で店が閉まっているあいだだけだったといえる。それだって新店舗開店準備にバタバタでゆったりできるわけではない。
ケータイ
 シフト管理をしている者にとっては“恐怖の必需品”だろう。肌身離さず持っていて、寝るときには枕元に置いてある。なんと言っても「○○君が来ないんですけど…」にはいつも身が縮む。遅刻常習者なら「またか」だし、遅刻などしたことのない人なら「事故でも起こしたのでは…」と心配になる。
元バイト
 地元在住の子たちは常連客となって買い物に来てくれるし、地方の子なら大学の同窓会などでこちらへ来る機会に顔を出してくれたりする。今のバイト学生が「元バイトっていう人たち、よく来ますね」と言う。元バイトの子が、自分の子どもを連れて買い物に来てくれるのはとくに嬉しい。